小松法律事務所

中心性頚髄損傷覚書-脊椎脊髄ジャーナル最新の知見から


○「中心性頚髄損傷覚書-追突事故による傷害でも起こることがあります」の続きで中心性頚髄損傷に関する情報です。
現在、交通事故による追突事故後に生じた中心性頚髄損傷による損害賠償請求事件を取り扱い、保険会社側と熾烈な医学論争を展開している事件があります。ご指導頂いている整形外科医師から提供頂いた脊椎脊髄ジャーナルMay 2008 vol1.21 no.5「特集『中心性』頚髄損傷・再考-最新の知見から」567頁以下「中心性頚髄損傷の自然経過」の記述を紹介します。

○「中心性頚髄損傷の自然経過」は、「はじめに」で「Schneiderらの原著によると、中心性頚髄損傷とは周知のとおり”下肢よりも上肢に強い運動障害、膀胱障害、損傷レベル以下のさまざま程度の知覚障害を呈する神経外傷”とされ、その自然経過は損傷の程度や年齢にもよるが、ほとんどの症例で不完全ながら徐々に神経症状が改善していくとされている」との記述から始まり、実際の症例3件を紹介しています。

○3件の実際症例の考察として
・これらの症例の中には時間の経過とともに受傷後早期に神経症状が進行性に悪化する症例
・受傷後ごくわずかの症状改善のみを呈する症例
・症状の改善が認められた後でも再度慢性期に症状の悪化を呈する症例

がそれぞれ存在することに注意が必要であるとしています。

○最後にまとめとして、以下の記述が参考になります。
・中心性頚髄損傷の症例のほとんどは時間経過とともにある程度神経症状が改善する
・一部例では明確な神経症状改善が認められるが、それは一般的には若年者で受傷時症状が軽い場合である
・多くの場合、歩行機能は回復するものの手指機能の回復は良好ではない
・受傷時の症状が比較的重度である場合は、症状の改善はごくわずかであり、その後も重い障害を残したままであるあることが多く、特に高齢者ではこの傾向が強い


○中心性頚髄損傷は、若くて受傷時症状が軽い場合明確な改善を示すことがありますが、受傷時症状が重かったり、また、高齢者では、なかなか改善が進まないようです。最後に中心性頚髄損傷の自然経過として、以下の6点にまとめられるとしています。
1)頚髄圧迫性病変が軽度で受傷時の神経症状も軽度な症例では、受傷後比較的早期に神経症状の良好な改善が期待できる
2)頚髄圧迫性病変があり受傷時の神経症状が中程度の症例では、受傷後早期に神経症状の改善がある程度認められるが、完全に回復することは少ない
3)下肢症状は上肢症状より改善しやすく、巧緻運動障害、上肢知覚障害は改善後も残存することが多い
4)受傷後、症状の改善がほとんど認められないことがある
5)受傷後長期間経過したのちに症状の悪化をきたすことがある
6)受傷時の神経症状が重度・中等度の症例では、受傷後早期に症状の悪化をきたす場合がある


○保険会社側顧問医の意見書では、受傷後悪化を来すことがあり得ないことを当然の前提として、受傷後、一定期間経過後に症状悪化する例は、当該症状とは異なる症状が発生したとして、交通事故による傷害との因果関係を否認するものが殆どです。そのような意見書に対し、上記脊椎脊髄ジャーナルMay 2008 vol1.21 no.5「特集『中心性』頚髄損傷・再考-最新の知見から」の記述は、大変、参考になります。