小松法律事務所

”平成28年4月ブラッドパッチ保険適用を契機とした現状の課題”紹介1


○平成28年4月から脳脊髄液減少症についてブラッドパッチ療法が保険適用になったと聞いていますが、保険適用の前提として脳脊髄液減少症の診断基準はどうなのか疑問に思っていました。これについて一般社団法人JA共済総合研究所医療研究研修部主任研究員香川栄一郎氏の「いわゆる「脳脊髄液減少症」裁判例と「ブラッドパッチ」、「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」の損害賠償実務の視点からの照査と検討― 平成28年4月ブラッドパッチ保険適用を契機とした現状の課題―」と題する研究報告が、一般社団法人JA共済総合研究所HPに公表されていましたので紹介します。

○以下、香川氏報告の抜粋です。

・平成28年2月10日に開催された厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会においてブラッドパッチ(正式名称:硬膜外自家血注入療法)が審議され、平成28年4月以降の保険適用が承認された。さらに、厚生労働省から「硬膜外自家血注入は、起立性頭痛を有する患者に係るものであって、関係学会の定める脳脊髄液漏出症の画像診断基準に基づき脳脊髄液漏出症として「確実」又は「確定」と診断されたものに対して実施した場合に限り算定できる」と通知された(保医発0304第3号平成28年3月4日)。

・今回、保険適用となったブラッドパッチ(英文表記はepidural blood patch)とは、脳脊髄液漏出部位の付近、もしくは漏出部位がわからない場合は腰椎の硬膜外腔へ患者から採血した新鮮自家血をゆっくりと注入し脳脊髄液の漏出を止めることにより症状の改善を図る手技のひとつである

・ブラッドパッチの手技
本技術は、脳脊髄液が漏出している部分の硬膜外に自家血を注入し、血液と硬膜外腔組織の癒着・器質化により髄液が漏れ出ている部分を閉鎖し、漏出を止めるものである。
具体的手技を下記に記載する。
①体位は、手術台上で側臥位または腹臥位とする。
②17G(針の太さの単位)程度の硬膜外穿刺専用の針を用いて、抵抗消失法(穿刺針に注射器をつなぎ、注射器を押しながら針を進めていくと、針の先端が硬膜外に到達すると抵抗が無くなるのを参考にする方法)にて硬膜外穿刺を行う。
③自家血は、15~ 40ml程度静脈採血し、注入に際しては、注入範囲を確認するため造影剤を4~ 10ml血液に加え、X線(レントゲン)透視下で注入する。
④治療後、1~7日間の臥床安静の後、退院とする。
⑤評価は、Visual Analog Scaleを用いて、治療により症状が治療前の何%改善したかを数値化し行う。また、本治療による有害事象の種類、発生率も評価対象である。

・脳脊髄液漏出症の画像診断基準
脳脊髄液漏出症の画像診断

・脳脊髄液漏出の『確定』所見があれば,脳脊髄液漏出症『確定』とする.
・脳脊髄液漏出の『確実』所見があれば,脳脊髄液漏出症『確実』とする.
・ 脳槽シンチグラフィーと脊髄 MRI/MR ミエログラフィーにおいて,同じ部位に『強疑』所見と『強疑』所見,あるいは『強疑』所見と『疑』所見の組み合わせが得られた場合,脳脊髄液漏出症『確実』とする.
・ 脳槽シンチグラフィーと脊髄 MRI/MR ミエログラフィーにおいて,同じ部位に『疑』所見と『疑』所見,あるいは一方の検査のみ『強疑』,『疑』所見が得られた場合,脳脊髄液漏出症『疑』とする.

『確定』所見
CT ミエログラフィー:くも膜下腔と連続する硬膜外造影剤漏出所見

『確実』所見
CT ミエログラフィー:穿刺部位と連続しない硬膜外造影剤漏出所見
脊髄 MRI/MR ミエログラフィー:くも膜下腔と連続し造影されない硬膜外水信号病変
脳槽シンチグラフィー:片側限局性 RI 異常集積+脳脊髄液循環不全

『強疑』所見
脊髄 MRI/MR ミエログラフィー:
①造影されない硬膜外水信号病変
②くも膜下腔と連続する硬膜外水信号病変
脳槽シンチグラフィー:
①片側限局性 RI 異常集積
②非対称性 RI 異常集積 or 頚~胸部における対称性の集積+脳脊髄液循環不全

『疑』所見
脊髄 MRI/MR ミエログラフィー:硬膜外水信号病変
脳槽シンチグラフィー:
①非対称性 RI 異常集積
②頚~胸部における対称性の集積