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債務不存在確認の訴えを却下した地裁判決を覆した高裁判決紹介

○「加害者側からの債務不存在確認の訴えを却下した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審平成28年11月2日東京高裁判決(自保ジャーナル・第1990号)を紹介します。

○事案は、
・女子Xは、平成26年8月25日午後3時40分頃、神奈川県伊勢原市内の路上を普通乗用車を運転して直進中、自宅から右折出庫してきたY乗用車に接触され、頸椎捻挫等の傷害を負い
・約1年5ヶ月も通院を継続し、脳脊髄液減少症発症の可能性があり、症状固定時期を確定できない等としたことから、Yは、本件交通事故による損害は全て弁済されたと主張して、債務不存在確認請求訴訟を提起
・1審平成28年5月25日横浜地裁小田原支部判決(自保ジャーナル第1990号)は、Xの診療前から、脳脊髄液減少症が本件事故との間に相当因果関係がないと即断することはできないとして、「本件訴えには確認の利益がない」とYの訴えを却下

したものです。

○控訴審平成28年11月2日東京高裁判決(自保ジャーナル・第1990号)は、「原審において、控訴人に本件事故によって被控訴人に脳脊髄液減少症が発症した可能性がないことを主張・立証する機会を全く与えることなく、控訴人が申し立てた送付嘱託を却下して、審理を終結し、本件訴えを却下したことは、確認の利益の存否についての審理を尽くさないものといわざるを得ない。」、「Yの請求に係る訴えの確認の利益について、さらに審理を尽くすために、本件を原審に差し戻すべきである」として、原判決を取り消し、1審裁判所に差し戻しました。

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主  文
1 原判決を取り消す。
2 本件を横浜地方裁判所小田原支部に差し戻す。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨

主文同旨

第二 事案の概要
1 本件は、原判決別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)を起こした控訴人が、本件事故により損害を受けた被控訴人に対し、控訴人との間で自動車損害保険契約を締結している保険会社(以下「控誌人保険会社」という。)が合計52万0455円を支払ったことで本件事故による損害が全て弁済されたと主張して、控訴人の被控訴人に対する本件事故に基づく損害賠償債務が一切存在しないことの確認を求める事案である。

2 原審は控訴人の請求に係る訴えを却下し、控訴人が控訴した。

3 判断の前提となる事実及び当事者の主張は、後記4に控訴人の当審における主張を追加し、原判決を次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁22行目の「(弁論の全趣旨)。」を「(弁論の全趣旨)。他方で、被控訴人は、控訴人保険会社による治療費等の支払が平成27年2月末で打ち切られたことから、前記(2)エ及びオの通院は自費で行った。」に改める。

(2) 同2頁22行目末尾の次に行を改めた上、次のとおり加える。
「(4) 控訴人から受任された弁護士が、平成27年10月5日付は通知書で、本件事故による損害賠償の交渉をしたい旨伝えたところ、被控訴人も弁護士に委任し、同年12月18日付け介入通知で、被控訴人は現在も本件事故の影響で頭のふらつき、身体の脱力感、足がふらつくなどの症状が継続し、C病院医師からしばらく症状の観察を続けた方がよいとの意見を受けたので、交渉を開始するまでしばらく猶予してもらいたいと回答した。

(5) 控訴人は同年12月25日、本件訴えを提起した。」

(3) 同3頁7行目の「原告が」を「被控訴人が」に改める。

(4) 同3頁12行目の「原告」を「被控訴人」に、同頁同行目の「現在まで10ヶ月以上」を「控訴人が本件訴えを提起するまで約10ヶ月」に改める。

(5) 原判決別紙交通事故目録(同7頁)10行目の「被告車両と接触した」を「被控訴人車両の右側面に衝突した」に改める。

4 控訴人の当審における主張
 本件訴えは、以下に述べるように確認の利益があり、原判決には審理不尽の違法がある。
(1) 控訴人は、被控訴人の本件事故による症状が治癒していることの立証を行っており、これにより症状が治癒しているとの心証を抱くことができれば、その時点で損害額が確定して審理を終結することが十分可能である。

(2) 他方で、被控訴人は現在の症状について脳脊髄液減少症の可能性を主張するのみで、同人が脳脊髄液減少症にり患していることも、本件事故と同症状との因果関係についても何ら立証していない。

(3) 原審は、控訴人が被挫訴人の通院した各医療機関に対する医療記録の文書送付嘱託を申し立てたにもかかわらず、これらを却下した上で、2回の口頭弁論期日を開いたのみで審理を終結し、本件訴えを却下したものであり、審理不尽がある。

第三 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求に係る訴えの確認の利益について、さらに審理を尽くすために、本件を原審に差し戻すべきであると思料する。その理由は次項のとおりである、


(1) 本件訴えは、本件事故の加害者である控訴人から、被害者である被控訴人に対して提起された債務不存在確認訴訟であるところ、控訴人は、本件事故によって被控訴人に生じた症状は治癒しており、現時点において損害額を確定することは可能であるとして、原審において、本件事故の状況に関する書証、被控訴人が通院した各医療機関の診断書及び診療報酬明細書を提出し、さらに、被控訴人が通院した各医療機関の診療記録の送付嘱託を申し立てた。

 これに対して、被控訴人は、本件事故により生じた症状は未だ治癒しておらず、現在も通院治療を受けており、通院先の医師から脳脊髄液減少症の可能性を指摘され、専門医であるE病院(以下「E病院」という。)を受診予定であることから、現時点において本件事故の損害を確定することはできず、本件訴えは即時確定の利益を欠くと主張し、本件訴えの却下を求め、通院中の医療機関の診療費請求書等、診療明細書、診断書及び被控訴人本人の陳述書を提出した。

 原審は、第2回口頭弁論期日で、控訴人の送付嘱託の申立てをいずれも却下し、弁論を終結して、第3回口頭弁論期日で本件訴えは確認の利益を欠くとして、これを却下した。

(2) そこで検討するに、原審に提出された証拠(略)によれば、被控訴人は、本件事故日の平成26年8月25日にB大学病院を受診し、「頸椎捻挫」により全治2週間程度を要す見込みと診断され、翌26日にC病院に転医し、同年9月8日まで、同病名で4日間通院し、その後、D整形外科に同月13日から平成27年2月28日まで、同病名で32日間通院し、同日、治癒と診断されたこと、被控訴人は任意保険からの治療費等の支払が打ち切られたことから、しばらく通院を控えていたが、頭のふらつき、首の痛み、全身の脱力感などの症状が続いたため、自費で通院を再開し、D整形外科に平成27年5月15日から平成28年1月18日までに40日間通院した事実が認められる。

 以上によれば、被控訴人が本件事故日に診断された「頸椎捻挫」については既に治癒ないし症状が固定したことを一応推認させる証拠が原審で提出されている一方、原審における被控訴人の主張は、通院先の医師から脳脊髄液減少症の可能性を指摘されたことから、E病院において脳脊髄液減少症の検査を受ける予定であるというにすぎないものであった。そうすると、控訴人としては、原審において、被控訴人が受診した各医療機関の診療記録等をもとに、本件事故態様及び被控訴人の障害の部位・程度・症状の推移等を検討し、本件事故によって被控訴人に脳脊髄液減少症の発症した可能牲が存在しないことを主張・立証する余地があったというべきである。

 しかるに、原審において、控訴人に本件事故によって被控訴人に脳脊髄液減少症が発症した可能性がないことを主張・立証する機会を全く与えることなく、控訴人が申し立てた送付嘱託を却下して、審理を終結し、本件訴えを却下したことは、確認の利益の存否についての審理を尽くさないものといわざるを得ない。なお、被控訴人は、本件が当審に係属中の同年4月8日にE病院脳神経外科丙川三郎医師の診療を受ける予約の申込みをしたというのであるから、少なくとも本件事故によって被控訴人に脳脊髄液減少症が生じた可能性がないという控訴人の主張に対する反証を求める限りでは、裁判所の適切な審理運営により、被控訴人に過度の応訴負担を生じさせるものともいえない。

3 以上によれば、原審が本件につき確認の利益がないとして訴えを却下したのは相当ではないから、原判決を取り消し、さらに、審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成28年9月12日)
 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官 永野厚郎、裁判官 見米 正、裁判官 三浦隆志

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