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医師と理学療法士の将来治療費を損害と認めた判例紹介

○「針灸・マッサージ費用等医師治療費以外の治療費」で「理学療法士治療も、通常、整形外科病院で整形外科治療の一環として行われますのでその費用も認められます。」と記載していましたが、29歳男子大卒会社員Xが衝突事故に遭い、頚髄損傷等で、高位脊髄麻痺、呼吸筋麻痺等1級3号後遺障害を残す事案で、「週1回は医師の診察が必要」で、「週2回は理学療法士のリハビリが必要」とし、その余命分の費用のうち「長期的には不確実の面が否定できない」ことで将来の治療費請求の「約7割」を損害と認めた平成17年5月17日名古屋地裁判決判決(自保ジャーナル第1597号)の該当部分を紹介します。

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主   文
1 被告らは、原告甲野太郎に対し、連帯して金2億5452万9082円及び内金2億4963万0452円に対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告甲野春夫に対し、連帯して金104万円及びこれに対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告甲野夏子に対し、連帯して金104万円及びこれに対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
4 訴訟費用は、原告甲野太郎と被告らとの間に生じた費用については、これを10分し、その3を被告らの負担とし、その余を原告甲野太郎の負担とし、原告甲野春夫及び原告甲野夏子と被告らとの間に生じた費用については、これを10分し、その3を被告らの負担とし、その余を原告甲野春夫及び原告甲野夏子の負担とする。
5 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
1 原告ら

(1) 被告らは、原告甲野太郎に対し、連帯して金8億2363万9273円及び内金8億1874万0643円に対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告らは、原告甲野春夫に対し、連帯して金330万円及びこれに対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告らは、原告甲野夏子に対し、連帯して金330万円及びこれに対する平成10年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、被告らの負担とする。
(5) 仮執行宣言

2 被告ら
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二 事実関係
 本件は、原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)が自動二輪車(以下「原告車」という。)を運転して進行中、被告廣瀬勝(以下「被告廣瀬」という。)運転の普通乗用自動車(以下「廣瀬車」という。)に衝突される事故(以下「本件事故」という。)により全治不能の脊椎・脊髄損傷等の傷害を負ったとして、被告廣瀬に対して、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文の運行供用者責任ないし民法709条(同法710条)の不法行為責任に基づき、被告株式会社さくら警備保障(以下「被告会社」という。)に対して、自賠法3条本文の運行供用者責任ないし民法715条(同法710条)の使用者責任に基づき、連帯して金8億2363万9273円(原告太郎が既払として認める4092万2739円を控除したもの)及び確定遅延損害金489万8630円を除く内金8億1874万0643円に対する本件事故の日である平成10年5月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告太郎の父母である、原告甲野春夫(以下「原告春夫」という。)及び原告甲野夏子(以下「原告夏子」という。)が、それぞれ、固有の慰謝料及び弁護士費用として、被告らに対し、上記責任に基づき、連帯して金330万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実

(中略)


4 争点3 原告らの損害について
(1) 原告らの主張
ア 原告太郎の損害

(ア) 治療費 5009万4021円
 原告太郎は、中京病院、中部労災病院、リハビリテーションセンター病院に入院し、上記症状固定日までの治療費として、中京病院3973万5006円、中部労災病院273万6977円、リハビリテーションセンター病院760万6238円を要した。
 また、原告太郎は、名城病院に対して転院伺いのため7400円を支払い、昭和大学病院に対して転院伺いのため8400円を支払った。

(イ) 症状固定後の治療費 1億6351万7640円
 原告太郎は、症状固定後も呼吸管理及び感染症等合併症の予防のため治療を受けている。現在は、労災給付で自己負担分はないが、労災負担分を点数で計算すると年間33万点であり、自由診療では1点20円となることから、年間660万円かかる。症状固定日を基準として平均余命までの46年間についてライプニッツ係数で年3分の割合による中間利息を控除すると上記金額となる。


(中略)

(2) 被告らの主張
ア 原告太郎の損害について
(ア) 上記治療費については、不知。

(イ) 上記症状固定後の治療費については、否認する。

① 個室利用の費用について(証拠略)のその点の記載は、カルテに(証拠略)「個室使用が必要だったという証明を入院期間全てということでお願い致します。例えば感染防止などといわれました。」との記載があるごとく、原告夏子の希望に従い、院内感染防止のために必要であるという記載になったにすぎない。

 原告太郎においては、本件事故から1年半経過後に症状固定時期が到来していたことは上記のとおりであるし、さらに長時間の外出、冬の外出、バスケットボールの観戦などをしていることからすれば、院内感染の危険性が高かったとは考えがたい。

② そもそも、症状固定後の治療費については、原則として否定されるべきものである。
 例外として、特に必要性がある場合のみ認められるものであり、この点、原告らの主張は必要であるとする治療行為について十分な必要性の説明がなされていない。
本件においては、せいぜい年1回の呼吸機能検査(約1500円)・腎機能検査(約7500円)と月1回のカテーテル交換(約1040円、外来管理加算52点と留置カテーテル設置52点、(証拠略))の必要性が認められる程度と考えられる(証拠略)。この場合、治療費は年間で計算すると合計で2万1480円となる。

③ 原告太郎は入院中から、たびたびバスケットボールの観戦、冬の公園等に外出していることから、合併症の危険など体力的に通院治療が困難な状態とは考えがたい。外出目的の中で、通院治療よりも本人自身が外出する必要性が高い目的など見当たらないのである。また、必要性には疑問があるものの自動車の改造も行われており、在宅訪問診療までは相当因果関係を欠くといわざるを得ない(少なくとも在宅介護費用と自動車改造費はどちらか択一的な請求にすべきである)。

 そして、週5回の治療も過剰である。ちなみに、(証拠略)「社会経験」の項目にも気管切開、カテーテルによる導尿の場合で隔週に1回の定期受診の旨記載されている。

④ ところで、原告太郎は、現在労災手続を利用し、治療費については病院から一切請求を受けていない。
 そして、いずれは、労災も治療費については支払が停止するものと思われるものの、それ以降の治療費についても特に損害として認めるべきでない。原告太郎は、身体障害者1級の認定を受けており(証拠略)、障害者医療費の支給により、治療費はかからない。

 原告太郎が身体障害者1級の認定を受けており、同人の労災の利用状況からしても、障害者医療費の制度の利用を予定していることは明らかであるといえる。

⑤ また、裁判所が自由診療の単価で損害として認定したところ、実際には被害者が障害者医療費の制度を利用した場合、将来の治療費相当額が加害者の負担になる一方、被害者が利得する結果となり不合理である。将来分については不確定である以上、蓋然性という観点から慎重に評価すべきである。

 重度後遺障害の裁判例を見ても、将来の治療費については被害者が損害の費目として請求をしていない例が非常に多いのは(億単位の請求については見当たらない。)、被害者の方々が障害医療費の制度を利用していることによるものではないかと推測できる。

⑥ さらに、原告太郎の請求は、自由診療の単価として1点20円で計算している点も不当である。原告太郎は労災を利用しているところ、労災の治療費は1点12円である。なお、健康保険を利用すると1点10円である(証拠略)。

(中略)

第三 当裁判所の判断

(中略)


3 争点3 損害について
(1) 治療費 5007万8221円

 上記第二、1(3)の事実並びに証拠(略)によれば、原告太郎は、本件事故により、上記第二、1(3)ア及びオのとおり、中京病院に入院し、その間に要した治療費が少なくとも3973万5006円であること、上記第二、1(3)の事実並びに証拠(略)によれば、原告太郎は、本件事故により、上記第二、1(3)イのとおり、中部労災病院に入院し、その間に要した費用が273万6977円であること、上記第二、1(3)の事実並びに証拠(証拠略)によれば、原告太郎は、本件事故により、上記第二、1(3)エのとおりリハビリテーションセンター病院に入院し、その間に要した治療費が少なくとも760万6238円であることが、それぞれ認められる。以上の合計は、少なくとも5007万8221円となる。

 被告らは、原告太郎の本件傷害の症状固定日が本件事故後1年ないし1年半であるとして、原告太郎の上記症状固定日までの治療費について争うが、原告太郎は上記第三、2において認定したとおり、平成13年6月19日まで症状固定に至っていなかったのであるから、上記5007万8221円は本件において損害賠償の対象となる治療費として認められる。

 また、被告らは、個室利用の必要性を争うが、上記第三、2の認定事実及び前掲各証拠によれば、原告太郎の症状が重篤であったこと、それゆえに家族の付添及び多数の医療機器が必要でその分の広さも必要であったこと、原告太郎の傷害は、高位脊髄損傷等であり(呼吸器系統の障害もある。)、感染しやすい状況にあったことが認められ、これらの事情からは、個室管理の必要性が認められる。

 なお、原告らは、名城病院及び昭和大学病院に対しての転院伺いに要した費用を治療費として主張する。
 しかしながら、(証拠略)によれば、平成10年8月28日に名城病院において100%自己負担で「公費・一部負担金」の名目で7400円を支払ったことが認められ、(証拠略)によれば、平成10年10月7日に昭和大学病院において自費で基本料として8400円を支払ったことが認められるものの、これらの費用が原告太郎の本件傷害の治療のための費用とは必ずしも明確ではなく、また、本件事故との相当因果関係を認めることも困難であるから、原告らの上記主張は採用できない。

(2) 症状固定後の治療費 3000万円
ア 上記認定事実並びに証拠(略)によれば、次のとおり認定判断される。
(ア) 本件事故による原告太郎の後遺障害は、高位頸随損傷等の重篤で、かつ、呼吸器系統に重大な障害を残すものであり、上記症状固定後もその状態を維持するために在宅治療を要し、その在宅治療として、少なくとも、週1回は医師の診察が必要であり、週2回は理学療養士のリハビリテーションが必要である(なお、訪問看護については、後記のとおり、将来の付添費を認めることから、別途認めることは困難である。)。

(イ) そして、少なくとも、週1回の医師の診察については、1か月16万円、週2回の理学療養士のリハビリテーションについては、1か月4万円の費用を要すると認めるのが相当である。

(ウ) また、原告太郎は症状固定時33歳の男性であり、平均余命は46年間であることが認められる。

(エ) そこで、ライプニッツ係数により年5分の割合の中間利息を控除して将来治療費を算定すると、次のとおり、4291万2000円となるところ、長期的には不確実の面が否定できないこと等にかんがみ、同金額の約7割に当たる3000万円をもって本件事故と相当因果関係のある症状固定後の治療費と認めるのが相当である。
① 医師の診察分 3432万9600円
 16万×12×17.8800=3432万9600円
② 理学療養士のリハビリテーション分 858万2400円
 4万×12×17.8800=858万2400
③ ①及び②の合計 4291万2000円


イ ところで、原告らは、中間利息控除について、利率は年3分であると主張する。
 しかしながら、中間利息を控除する場合に、一般にその利率を年5分としているのは、将来得べかりし収入が現在価格で一時に支払われる場合には様々な有利と思われる運用、利殖をすることができること、他方では支払う側の負担等を考慮し、民事法定利率を斟酌したものであり、特に、本件は、期間が46年間と長期間に及ぶ事案であり、金利の変動は、世界的な政治、経済情勢や国内における政治的、経済的、社会的諸要因によって影響を受けるものであり、上記46年間に及ぶ長期間に金利が変動し年5分を超える可能性も考えられ、上記原告らの主張は採用することができない(なお、原告らは、他にも同様の主張をするが、ほぼ同様の判断であるから、以下、個々に記載しない。)。


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