小松法律事務所

車両損害保険金支払保険代位損害賠償請求を認めた地裁(二審)判決紹介


○「車両損害保険金支払保険代位損害賠償請求を認めた簡裁(一審)判決紹介」の続きで、その控訴審の平成29年10月19日東京地裁判決(交民裁判例集51巻2号275頁)関連部分を紹介します。

○首都高速道路上で、控訴人X1運転、所有の控訴人車が本線から分岐車線に進路変更し、被控訴人会社所有、被控訴人Y1運転の被控訴人車も控訴人車の後方で本線から分岐車線に進路変更したところ、控訴人車と被控訴人車が接触した本件事故につき、控訴人ら及び被控訴人らがそれぞれ、損害賠償を請求しました。

○控訴審判決も、控訴人X1は、本線から分岐車線に進路変更するに当たり、本件分岐点の手前には進路の安全を確認しつつ慎重に進路変更を行うのに十分な長さにわたり本線と分岐車線の並走区間が設けられているにもかかわらず、本件分岐点の直前に至ってから急なブレーキ操作及びハンドル操作を行って、被控訴人車の進路前方に割り込むような危険な態様で進路変更をして、本件事故を発生させたものであるから、控訴人X1には過失がある一方、被控訴人Y1も、分岐点付近においては進路前方に進入してくる車両がないか慎重に確認しながら走行すべきであるのに、これを怠った過失があるとして、控訴人側と被控訴人側の過失割合を7対3と認定しました。

○一審平成29年2月28日東京簡裁判決の認容額が、多少変更になっていますが、事案が複雑であり、その理由等について、上告審平成30年4月25日東京高裁判決と合わせて別コンテンツで説明します。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人Y1及び被控訴人会社Y2は,控訴人X1に対し,連帯して,12万1350円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人X1は,被控訴人会社Y2に対し,18万2592円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人X1は,被控訴人三井住友海上に対し,51万5195円及びこれに対する平成27年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人Y1は,控訴人三井ダイレクトに対し,1815円及びこれに対する平成28年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 控訴人X1のその余の本訴請求(当審における拡張請求を含む。),被控訴人会社のその余の反訴請求,被控訴人三井住友海上のその余の請求及び控訴人三井ダイレクトのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを6分し,その5を控訴人らの負担とし,その余は被控訴人らの負担とする。
3 この判決は,1項(1)ないし(4)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

1 控訴の趣旨((1)は当審における拡張請求を含む。)
 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人Y1及び被控訴人会社は,控訴人X1に対し,連帯して,141万3212円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人会社及び被控訴人三井住友海上の請求をいずれも棄却する。
(3) 被控訴人Y1は,控訴人三井ダイレクトに対し,28万9200円及びこれに対する平成28年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 附帯控訴の趣旨
 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人X1は,被控訴人会社に対し,23万0640円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人X1は,被控訴人三井住友海上に対し,77万8850円及びこれに対する平成27年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人らの請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要
1 本件は,首都高速道路上で,控訴人X1が運転し所有する普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)が本線から分岐車線に進路変更し,被控訴人会社が所有し被控訴人Y1が運転する中型貨物自動車(以下「被控訴人車」という。)も控訴人車の後方で本線から分岐車線に進路変更したところ,控訴人車と被控訴人車が接触した交通事故(以下「本件事故」という。)について,控訴人ら及び被控訴人らが次の各請求をする事案である。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(事故態様と双方の過失の有無及び割合)について

(1) 前提事実に加えて,証拠(甲2~4,7,11,12,14,22,乙3,5,12)及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人X1は,控訴人車を運転して,首都高速中央環状線内回りから首都高速3号渋谷線に入って東名高速方面に向かう予定で,分岐車線が始まる前から本線(第2車線)を走行していたこと,②被控訴人Y1は,被控訴人車を運転して,控訴人車に後続して本線を走行していたところ,分岐車線の起点に近いところで本線から分岐車線に進路変更し,分岐車線には前方を走行する車両がなかったことから加速したこと,③控訴人X1は,本線において控訴人車のすぐ前を走行していた先行車両も分岐車線に入るものと考えてこれに追随していたところ,本件分岐点付近に至っても先行車両はそのまま直進を続けたことから,本件分岐点付近でブレーキをかけながら急なハンドル操作を行って,本線から分岐車線に進路変更したこと,④控訴人車が分岐車線に進入したところ,控訴人車の右後角付近と被控訴人車の左前角付近が衝突したことが認められる。

 なお,控訴人らは,本件事故の発生場所である分岐車線の制限速度は時速40kmであり,被控訴人車に速度超過があったと主張するが,分岐車線に制限速度40kmの道路標識が設置されているのは,本件分岐点から始まるゼブラゾーンが終わった後の位置であるから(甲14),それより手前にある本件事故の発生場所の制限速度は本線と同じく時速60kmであると解され(道路標識,区画線及び道路標示に関する命令2条),被控訴人車が分岐車線への進入後に加速した事実は認められるものの,時速60kmを超える速度まで加速した事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 上記の事実によれば,控訴人X1は,本線から分岐車線に進路変更するに当たり,本件分岐点の手前には進路の安全を確認しつつ慎重に進路変更を行うのに十分な長さにわたり本線と分岐車線の並走区間が設けられているにもかかわらず,本件分岐点の直前に至ってから急なブレーキ操作及びハンドル操作を行って,被控訴人車の進路前方に割り込むような危険な態様で進路変更をして,本件事故を発生させたものであるから,控訴人X1には過失がある。一方,被控訴人Y1においても,分岐点付近においては進路前方に進入してくる車両がないか慎重に確認しながら走行すべきであるのに,これを怠った過失があり,双方の過失の内容,程度等を勘案すると,双方の過失割合は,控訴人側7割,被控訴人側3割とするのが相当である。

2 争点(2)(控訴人X1の損害)について
(1) 車両損 41万0550円
 本件事故による控訴人車の損傷を修理するには,141万3212円を要すると認められる(甲2)。

 一方,①本件事故当時,控訴人車(BMW・323i)は初度登録(平成12年6月)から約15年経過しており,走行距離も平成27年1月30日時点で3万6800km,本件事故後の同年4月18日時点で3万7064kmであったこと(甲8,20,弁論の全趣旨),
②控訴人車と同車種,同型式の中古車について,(a)平成10年~平成13年式の中古車両4台の販売事例における平均価格(税抜)が26万5000円であること(乙1),(b)平成12年式の中古車両につき本体価格(税込)39万円での販売事例があること(甲23の3),平成11年式の中古車両につき43万円(税抜。甲23の1),39万円(税抜。甲23の2)の見積事例があること,③控訴人三井ダイレクトにおいては控訴人車の時価を30万円と算定していたこと(甲19の1)によれば,控訴人車の時価は35万円程度と認められる。また,証拠(甲23の2)及び弁論の全趣旨によれば,買替えに要する諸費用は,6万0550円(登録届出費用・同手続代行費用4万2800円,リサイクル預託金相当額1万7750円)と認められる。

 そうすると,修理費用の額(141万3212円)が,控訴人車の時価35万円と買替諸費用6万0550円の合計41万0550円を超えるから経済的全損となり,控訴人車の損害として認められるのは41万0550円にとどまる。

(2) ETC買替取付費用 0円
 本件事故当時,控訴人車にETC機器が搭載されていたことを認めるに足りる証拠はなく,ETC買替取付費用は本件事故による損害とは認められない。

(3) そうすると,控訴人X1の損害は41万0550円であり,これに7割の過失相殺(△28万7385円)をすると12万3165円となる。
 そして,前提事実のとおり,控訴人三井ダイレクトが車両保険金として28万9200円を支払済みであるが,そのうち28万7385円は控訴人X1の損害のうち過失相殺分の填補に充てられるから,控訴人X1が請求できる額は,41万0550円(過失相殺分28万7385円を含む。)から28万9200円を控除した12万1350円となり,控訴人三井ダイレクトの代位取得額は12万3165円から12万1350円を控除した1815円となる(甲25)。

3 争点(3)(被控訴人会社の損害)について
(1) 修理費用 87万8850円(前提事実のとおり)
(2) 休車損害 11万7988円
 休業損害の基礎額は,売上額から流動経費の額を控除して算出すべきであり,流動経費には,高速代・燃料代のほか,修繕費も含まれる。
 被控訴人会社の売上額から高速代及び燃料代を控除した額については,平成26年11月稼働分(平成27年1月分。稼働日数22日)が月額76万7225円,平成26年12月稼働分(平成27年2月分。稼働日数21日)が月額58万3995円,平成27年1月稼働分(同年3月分。稼働日数19日)が月額67万0612円であることは当事者間に争いがない。そして,証拠(乙6,7)によれば,被控訴人会社の保有車両台数は11台であり,年間(平成27年)の修繕費は859万3000円であることが認められるから,次の計算式のとおり,1台当たりの燃料費月額は6万5098円,休車損害日額は2万9497円となり,これに被控訴人車の休車日数4日(当事者間に争いがない。)を乗ずると,休車損害は上記の額となる。
 (計算式)年額859万3000円÷11台÷12月=6万5098円
 {(76万7225円-6万5098円)÷22日+(58万3995円-6万5098円)÷21日+(67万0612円-6万5098円)÷19日}÷3日=日額2万9497円
 日額2万9497円×4日=11万7988円

(3) 上記(1),(2)の合計は99万6838円であり,これに3割の過失相殺をすると,69万7787円(修理費用61万5195円,休車損害8万2592円)となる。
 そして,前提事実のとおり,被控訴人三井住友海上が車両保険金として上記修理費用から免責分10万円を控除した77万8850円を支払済みであるから,被控訴人会社が請求できる額は,修理費用のうち損害の填補がされていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2592円の合計である18万2592円となる。

 一方,被控訴人三井住友海上は,過失相殺後の修理費用61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の限度で,被控訴人会社の控訴人X1に対する損害賠償請求権を代位取得したことになる(乙13)。

4 以上によれば,各請求は次の限度で理由がある。
(1) 本訴
 控訴人X1が,被控訴人Y1に対しては民法709条に基づき,被控訴人会社に対しては同法715条に基づき,連帯して,損害賠償金12万1350円及びこれに対する平成27年4月2日(事故日)から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度

(2) 反訴
 被控訴人会社が,控訴人X1に対し,民法709条に基づき,損害賠償金18万2592円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度

(3) 甲事件
 被控訴人三井住友海上が,控訴人X1に対し,保険法25条に基づく請求権代位により,民法709条に基づき,損害賠償金51万5195円及びこれに対する平成27年7月2日(保険金支払日の翌日)から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度

(4) 乙事件
 控訴人三井ダイレクトが,被控訴人Y1に対し,保険法25条に基づく請求権代位により,民法709条に基づき,損害賠償金1815円及びこれに対する平成28年11月5日(保険金支払日の翌日)から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度

5 よって,これと異なる原判決を上記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第27部 (裁判長裁判官 谷口園恵 裁判官 磯尾俊明 裁判官 佐藤智彦)