小松法律事務所

自賠責後遺障害非該当を14級後遺障害認定地裁判決紹介


○私の扱う交通事故損害賠償請求訴訟の殆どは後遺障害等級の争いで医学論争を伴うものです。保険会社は、自賠責保険の後遺障害等級認定を絶対視して、決してそれを超える後遺障害の主張を認めません。後遺障害等級14級事案について、それを超える12級以上の後遺障害を主張している事案が現在も数件ありますが、保険会社の自賠責認定後遺障害等級へのこだわりは、堅固極まります。特に脳脊髄液漏出症を原因とする後遺障害は絶対に認めないことで一致しています。

○自賠責で後遺障害非該当と認定された事案について例えば14級の最も軽い後遺障害等級を主張しても、保険会社は、自賠責判断を絶対視して、非該当の主張に堅固にこだわり、判決にならない限り認めないのが原則です。現在私も自賠責後遺障害非該当認定事案で12級後遺障害を主張している例を抱え、せめて14級程度で和解できないかと考えている事案がありますが、保険会社は徹底して自賠責認定にこだわります。

○自賠責非該当認定事案を14級を認めた令和3年7月8日福岡地裁判決(自保ジャーナル2106号31頁)関連部分を紹介します。傷害部分損害は示談済みで、後遺障害部分損害として約304万円請求し、症状継続の一貫性等から後遺障害等級14級を認定して210万円の支払を認めています。

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主   文
1 被告は,原告に対し,210万4,443円及びこれに対する平成28年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は,原告に対し,304万4,050円及びこれに対する平成28年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は,原告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)に,被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)について,原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金304万4,050円及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成28年2月23日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提となる事実

         (中略)

2 争点及び争点に対する当事者の主張

         (中略)

(2)本件事故により原告に後遺障害が残存したかどうか。
(原告の主張)

 原告には,症状固定後も,〔1〕頸椎捻挫後の頸部痛,右上肢のシビレ,両肩のこわばり,後屈での嘔気,胸部痛,左肩痛等,〔2〕腰椎捻挫後の腰部痛,両下肢シビレ,痛み,間欠性跛行等,〔3〕右手関節捻挫後の右手関節の腫脹,疼痛,シビレの各症状が残存しており,これらはそれぞれ後遺障害等級第14級9号に該当し,併合14級となる。

(被告の主張)
 原告の症状には他覚的所見及び医学的に説明可能な神経学的所見・画像所見は存在せず,また,原告の症状経過は一貫性がないから,原告に本件事故と相当因果関係を有する後遺障害は存在しない。

         (中略)

第三 当裁判所の判断

         (中略)

2 争点(2)(本件事故により原告に後遺障害が残存したかどうか。)について
(1)前記前提となる事実,後掲の各証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告車両の損傷状況
 本件事故により,原告車両は,リアバンパフェイシアの取替え,リアフロア及び左リアサイドメンバの修理等を要する損傷を負い,その修理費用は15万3,000円であったが,原告車両の後部には大きな凹みまでは生じていない。

イ 原告の通院状況等
(ア)原告は,本件事故日である平成28年2月23日,b病院を受診し,頸部痛,嘔気を訴え,頸椎捻挫と診断された。頸部外傷,四肢疼痛はなく,頸部Xp検査で明らかな骨折像なしとされた。
 また,原告は,同年3月18日にも同病院を受診した。

(イ)原告は,平成28年2月26日,c外科医院を受診し,後頸部痛,腰痛,手のシビレを訴え,同日夜からは右手関節痛を訴え,頸椎捻挫,腰椎捻挫,右手関節捻挫と診断された。
 原告は,c外科医院に同年8月30日まで通院を継続し,障害の緩解の見通しなく,同日症状固定と診断された。
 原告に残存している自覚症状としては,頸部痛,腰部痛,胸部痛,左肩痛,右手関節の腫脹,疼痛,シビレ,両下肢のシビレ,疼痛,間欠性跛行等がある。

(ウ)原告は,平成28年4月21日,d病院を受診し,頸椎捻挫,頸椎症疑いと診断された。頸椎MRI検査の結果では,軽度の変形性頸椎症との所見であり,C5/6の軽度のヘルニア,両側第7頸神経神経根起始部付近の軽度圧排,右第7頸神経神経根の軽度腫脹が認められたが,平成27年3月17日の交通事故による受傷のため同月23日に実施されたMRI検査の結果との比較では,明らかな増悪,著変は見られなかった。

 また,原告は,平成28年5月9日,同病院を受診し,腰部脊柱管狭窄症疑いと診断された。腰推MRI検査の結果では,軽度の変形性腰椎症との所見であり,L3/4~L5/S1に軽度の骨棘,黄色靱帯肥厚による軽度の脊柱管狭窄症,両側第4,5腰神経,第1仙骨神経神経根起始部付近の圧排,L4/5に軽度の右椎間関節炎の可能性が認められた。

ウ 後遺障害等級認定手続等
 原告は,平成28年11月7日,自賠責保険における後遺障害等級認定手続において,〔1〕頸椎捻挫後の頸部痛,右上肢のシビレ,両肩のこわばり,後屈での嘔気,胸部痛,左肩痛等,〔2〕腰椎捻挫後の腰部痛,両下肢のシビレ,痛み,間欠性跛行等,〔3〕右手関節捻挫後の右手関節の腫脹,疼痛,シビレ等について,いずれの症状も自賠責保険における後遺障害に該当しないと判断された。

 これに対して,原告が,いずれの症状も後遺障害等級第14級9号に該当し,併合14級になると主張して異議を申し立てたところ,自賠責保険(共済)審査会は,平成29年4月14日,前回回答のとおり自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断した。
 原告は,さらに,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請をしたところ,同機構の紛争処理委員会は,同年8月4日,上記〔1〕及び〔2〕の各症状について,いずれも自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断した。

(2)前記認定によれば,原告は,本件事故直後から,頸部痛,腰痛,右手関節痛等を訴えて通院を継続し,医師も頸椎捻挫,腰椎捻挫及び右手関節捻挫と診断して治療を継続し,症状固定と診断された平成28年8月30日の時点においても,〔1〕頸椎捻挫後の頸部痛,右上肢のシビレ,両肩のこわばり等,〔2〕腰椎捻挫後の腰部痛,〔3〕右手関節捻挫後の右手関節の腫脹,疼痛等の各症状が残存している。そして,主治医であるc外科医院の医師は,上記各症状がいずれも本件事故による後遺障害であることを認めている。
 したがって,原告には,本件事故により後遺障害が残存したというべきであり,上記各症状には必ずしも的確な他覚的所見が見当たらないということができるから,これらは後遺障害等級第14級に相当するというべきである。


(3)これに対し,被告は,本件事故による衝撃は軽微であるから,原告に後遺障害が残存するとは考えられない旨主張する。
 しかし,前記認定によれば,原告車両は,本件事故により,大きな凹みまでは生じていないものの,リアバンパフェイシアの取替えのほか,リアフロア及び左リアサイドメンバの修理等を要する損傷を負い,その修理費用は15万3,000円に及んでいるから,原告が受けた衝撃は必ずしも軽微なものとはいえない。また,ハンドルを握っていた原告が右手関節捻挫を受傷することも不自然ということはできない。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。

 次に,被告は,原告の症状には他覚的所見及び医学的に説明可能な神経学的所見・画像所見が存在しないから,後遺障害が残存しているとはいえない旨主張する。
 確かに,原告は,平成28年3月18日の所見として,腱反射は正常,筋力は正常,筋委縮は無し,ジャクソンテスト及びスパーリングテストは左右ともに「-」とされ,同年8月30日の所見として,筋委縮は無しとされるなど,有意な他覚的所見,神経学的所見に乏しいことは否定できない。しかし,特に頸椎捻挫及び腰椎捻挫による症状については,有意な他覚的所見,神経学的所見が見当たらないとしても,後遺障害等級第14級に相当する後遺障害が残存していると判断することは否定されない。また,原告の右手関節捻挫後の右手関節の腫脹,疼痛等の症状は,同日の所見として,徒手筋力テストにおいて右手関節に異常が見られるから,一定の裏付けがあるということができる。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。

 なお,前記認定によれば,平成28年4月21日の頸椎MRI検査の結果では,C5/6の軽度のヘルニア,両側第7頸神経神経根起始部付近の軽度圧排,右第7頸神経神経根の軽度腫脹が認められているが,これらは平成27年3月17日の交通事故による受傷のため同月23日に実施されたMRI検査の結果との比較では,明らかな増悪,著変は見られなかったのであるから,本件事故により生じたものということはできない。

また,平成28年5月9日の腰痛MRI検査の結果では,L3/4~L5/S1に軽度の骨棘,黄色靱帯肥厚による軽度の背柱管狭窄症,両側第4,5腰神経,第1仙骨神経神経根起始部付近の圧排,L4/5に軽度の右椎間関節炎の可能性が認められているが,これらは退行性変化であることが窺われるから,直ちに本件事故により生じたものということはできない。したがって,これらが本件事故による受傷についての他覚的所見であるということはできないが,もっとも,原告が,本件事故以前から頸部痛,腰痛等を訴えていたことは窺われないから,原告に残存している症状が既往症によるものということはできない。
 c外科医院の診療録には,手のシビレが抗がん剤の影響であることを示す記載があるが,同医院の医師自身が抗がん剤の影響であることに否定的な意見を述べているから,直ちに原告の右上肢のシビレが本件事故によるものでないということはできない。

 また,被告は,原告の症状経過は一貫性がないから,原告に本件事故と相当因果関係を有する後遺障害は存在しない旨主張する。
 しかし,前記認定によれば,原告は,本件事故日である平成28年2月23日,b病院を受診して頸部痛等を訴え,同月26日,c外科医院を受診して後頸部痛,腰痛,手のシビレを訴え,同日夜からは右手関節痛を訴え,以後,一貫してそれらの症状を訴えているのであって,本件事故の当日に腰痛,右手関節痛等を訴えていなかったとしても,その受傷内容からして,直ちに症状経過が,不自然ということはできない。

同年3月5日の診療録には,「頸,腰がよくなったがまたぶり返した」との記載があるが,受傷から間もない時期のことである上,天候が悪い時等に症状が強くなった旨の訴えと理解することができるから,症状経過が不自然ということはできない。右上肢のシビレは,平成28年4月9日頃に出現したとのc外科医院の医師の所見があるものの、実際には,b病院における初診日である同年2月23日から見られた症状であるし,c外科医院の診療録においても同月26日に手のシビレがあること自体は記載されているから,症状経過が不自然ということはできない


両下肢のシビレは,同年4月22日頃出現したものとされており,医療記録上,本件事故直後から生じていたことは窺われないから,本件事故による受傷を原因として発生したものと認めることはできないが,前記の腰椎MRI検査の結果得られた各所見がその原因であることが窺われることからすると,直ちに不自然な症状の訴えということはできず,原告の腰痛等の他の症状経過までもが不自然との評価を受けるものということはできない。
 したがって,原告の症状経過は一貫性がないということはできないから,被告の上記主張も採用できない。 

3 争点(3)(原告の損害額)について

         (中略)

4 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告に対し,損害金210万4,443円及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成28年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって,原告の請求を上記の限度で認容し,その余の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,被告の求める仮執行免脱宣言は,相当でないから付さないこととする。
福岡地方裁判所第3民事部 裁判官 吉田達二