小松法律事務所

自賠責神経症状14級認定を12級と認めた地裁判決紹介


○骨折後の疼痛・しびれ感等の神経症状についての後遺障害等級は、自賠責は提出の画像上,骨折部は明らかな変形を残さず癒合が認められ,他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられないとして、14級認定に留めるものが殆どです。これを他覚症状が認められ12級相当であると主張しても、加害者側任意保険会社側は自賠責認定を錦の御旗として、12級認定には徹底的に抵抗します。

○訴訟に至っても、任意保険会社側は、12級認定には徹底抗戦の姿勢で、保険会社側顧問医意見書等を総動員して徹底的に争い、裁判所もなかなか被害者側主張を採用することがありません。左鎖骨骨幹部骨折後の左肩関節・左鎖骨部の疼痛・しびれ・関節可動域制限感等の症状について,鎖骨骨折部が明らかな変形を残さず癒合が認められているとして、14級とした自賠責認定に対し、CT画像等から,左鎖骨は骨癒合不全であるとして12級相当と主張し、12級を認めた令和4年1月27日京都地裁判決(自保ジャーナル2119号80頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,710万8363円及びこのうち645万8363円に対する令和2年6月18日から支払済みまで,このうち65万円に対する平成31年4月2日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の,その余を原告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は,原告に対し,1024万6242円及びこのうち931万4766円に対する令和2年6月18日から支払済みまで,このうち93万1476円に対する平成31年4月2日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は,京都市<以下略>において,原告運転の普通自動二輪車(以下「原告車」という。)と,被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)により,人的損害が生じたと主張して,原告が,被告に対し,不法行為又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,1024万6242円及びこのうち931万4766円に対する自賠責保険金支払日の翌日である令和2年6月18日から支払済みまで,このうち93万1476円に対する本件事故日である平成31年4月2日から支払済みまで,それぞれ平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等

         (中略)

(3)後遺障害診断
ア 原告については,令和2年2月17日付けで,c病院において,令和2年2月14日を症状固定日として,傷病名を左鎖骨骨幹部骨折,左第2・4肋骨骨折,自覚症状を左肩関節可動域制限,鈍い痛み,しびれ感,左鎖骨部の痛み・しびれ感,左腕・手指しびれ感,仕事などで必要な重量物を持てない,左側を下にして寝られないとする後遺障害診断書(以下「本件診断書」という。)が作成された。精神・神経の障害,他覚症状及び検査結果としては,「Xp,CTにおいて,左鎖骨骨折部の骨折部はいまだに十分な骨癒合には至っていない」,「知覚鈍麻5/10,7/10」等と記載された。

 関節機能障害としては,左肩の外転運動が,自動80度,他動90度とされ,健側である右側の外転運動は,いずれも180度と記載されたほか,左肩関節可動域制限や知覚鈍麻・鈍い痛みは,これからも持続することが見込まれるとされた。

イ 原告は,本件診断書に基づいて,自賠責保険に対し後遺障害の事前認定の申請をしたところ,令和2年6月15日付けで,左肩関節の鈍い痛み・しびれ感,左鎖骨部の痛み・しびれ感等の症状については、提出の画像上,骨折部は明らかな変形を残さず癒合が認められ,他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられないが,骨折の状態,症状経過,治療経過等を勘案すると,将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えられることから,「局部に神経症状を残すもの」として第14級9号に該当するとの判断を受けた。

 他方で,左肩関節の機能障害については,左鎖骨の骨折部が明らかな変形を残さず癒合が認められることを踏まえれば,後遺障害診断書に所見されているような高度な可動域制限を生じるものとは捉え難いことから,自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断を受けた。


         (中略)

2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の主な争点は,原告に残存した後遺障害の内容と,原告の損害額であり,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1)原告の後遺障害の内容
(原告)
ア 左肩関節機能障害(後遺障害等級12級6号)
ア)労災協力医が測定した左肩の可動域測定値によれば,原告の左肩関節可動域制限については,後遺障害等級12級6号が認められるべきである。原告は,労災保険の障害認定では,左肩関節機能障害として障害等級第12級の6の認定を受けた。

         (中略)

ウ 自賠責保険の後遺障害等級認定結果
 原告は,自賠責保険に対し,後遺障害等級認定申請を行ったが,左鎖骨骨幹部骨折後の左肩関節の鈍い痛み・しびれ感,左鎖骨部の痛み・しびれ感等の症状について,14級9号が認定されたにとどまった。
 自賠責保険は,原告の左肩関節可動域制限に関し,鎖骨骨折部が明らかな変形を残さず癒合が認められていることを理由に,高度な可動域制限を生じるものとは捉え難いと判断し,後遺障害等級を認めていない。

 しかし,原告の鎖骨骨折部分はプレート固定術が施行されるも,骨癒合が進まず,令和元年10月18日に難治性骨折超音波治療法が開始され,セーフスという治療機器を借りて毎日自宅で使用していたものの,令和2年2月になっても一部分のみの骨癒合にとどまり,主治医は,症状固定時も左鎖骨骨折部分は十分な骨癒合には至っていないと診断した。労災協力医も,症状固定日のCT画像から,左鎖骨は骨癒合不全であると判断している。原告の左鎖骨骨折部はプレートのすぐ下の一部分でしか骨癒合していないことは明らかであるところ,原告の左肩可動域は,この一部分でしか骨癒合していないことの影響を受けて制限されているのであり,この点を看過した自賠責保険の判断は妥当ではない。


         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 認定事実等


         (中略)

2 争点(1)(原告の後遺障害の内容)に対する判断
(1)上記認定事実によれば,原告は,c病院において手術を受け,その後整形外科及びリハビリ科を受診し,入院中には内服薬等で疼痛コントロールをしていたが,5月8日以降,医師によって左肩屈曲外転制限をなしとしてリハビリが開始され,5月末頃までは,カルテ上に記載された外転の可動域も最大165度とされていたことが認められる。

しかし,6月以降には,鎖骨周辺の疼痛,圧痛,しびれや違和感を訴え,以前に比べると強くなっている様子であるとカルテ上記載された日があるほか,6月8日には,鎖骨下の圧痛がありしびれも増強しているなど,少し状況が変わっているとの記載があり,以後,6月には外転110度や120度でつまり感がある等とされており、6月頃にいったん症状が悪化した状況を認めることができる。

 そして,原告は,7月から勤務先に復職し,c病院の整形外科に通院するのと並行して,e病院でリハビリ治療を開始したが,e病院においては,8月には左肩関節の外転が自動で145度とされていたほか,c病院の整形外科では,7月から9月の診察時に左肩関節の外転が他動で150度とされ,11月22日の診察時には可動域制限は少ないとされていたなど,7月から11月下旬頃までは,疼痛がある点を除き,可動域に関しては健側の4分の3以下となっていたとは認められない。他方で,11月下旬には,e病院において側方挙上(外転)110度,12月下旬には同100度との記載がある。
 
 そうすると,原告の左肩関節については,本件診断書において外転90度,労災診断書において外転90度,労災意見書において外転105度との記載があるが,いずれも原告の治療に伴いカルテに記載された数値と乖離しており,原告の受傷内容,カルテに記載された原告の症状の経過も併せて考えれば,本件診断書,労災診断書,労災意見書に記載された数値を,器質的な機能制限を示すものとして直ちに採用することはできない。

 そして,粉砕骨折であったため一部間隙を残している状態ではあるが,原告の左鎖骨骨折部が癒合していると認められること,骨折部がプレート固定されていること,原告の左鎖骨骨折,同骨折部の癒合の程度やプレートによる固定が,左肩関節の動きを制限するような器質的原因に該当するかどうかは,証拠上明らかでないことに鑑みれば,原告の左鎖骨骨幹部骨折の後遺障害として,左肩関節の機能障害が残存したと認めるには足りない。

(2)なお,被告は,c病院及びe病院のカルテに記載された可動域については,肩関節の基本軸を固定しないで測定されており,角度計を用いたものでなかったり,リハビリ後のものであったりするから,いずれも正確なものではないと主張する。

 しかし,c病院においても,そのカルテの内容に照らし,可動域を記載する際には,原告の肩関節の動きが代替運動によるものかどうか検討されているほか,リハビリ前後で可動域が変化することを前提とした記載がされていると認められるから,カルテに記載された原告の左肩関節の可動域が信頼できないものであると認めることはできない。

(3)他方で,上記認定事実によれば,原告については,c病院及びe病院の診療録上,左肩関節の外転運動について,疼痛や引っかかりがあるとの記載があるほか,5月下旬以降,その程度は日によっても異なるが,左鎖骨周辺の疼痛,圧痛やしびれ等を一貫して訴えていることが認められる。また,c病院の9月30日のカルテには,Xp上骨癒合が進んでいない様子であり,仕事作業負担が大きいためか鈍痛が続いており,偽関節となる可能性があるとして,原告の骨癒合の程度と,原告の訴える疼痛との間に関連があることをうかがわせる記載がある。

e病院の同日のカルテにおいても,疼痛 骨癒合が遅い,無理しないように言われている,創部しびれ,張りがあるとされている。

 そして,画像鑑定報告書によれば,左鎖骨骨折部の癒合が一部不完全であることが,左鎖骨骨折部の疼痛の原因となっている可能性が十分にあると考えられるとされていること,意見書によれば,偽関節や骨癒合不全の臨床所見として,圧痛や遷延する疼痛は極めて一般的な所見であるとされていること,意見書において,鎖骨骨幹部骨折をプレートにて固定した際に,皮神経としての鎖骨上神経の損傷が起きることによって,鎖骨周囲のしびれ感を10%から29%に認めるとされていること,その他本人尋問及び陳述書において,原告が左鎖骨部周辺の違和感や疼痛を訴えていること等を考慮すれば,原告には,左鎖骨部について,左鎖骨骨幹部骨折後の神経症状として12級13号に相当する後遺障害が残存したものと認めることが相当である