小松法律事務所

遺族厚生年金は逸失利益の対象とはならないとした最高裁判決紹介


○「遺族厚生年金は逸失利益の対象とはならないとした地裁判決紹介」の続きで、その判例が援用している平成12年11月14日最高裁判決(判時1732号78頁、判タ1049号220頁)について、大変重要な判例ですので、全文を紹介します。

○最高裁は、遺族厚生年金が逸失利益の対象にならない理由を、遺族厚生年金は、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有すること、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということ、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということの3つを挙げています。

○同様の理由で、共済給付金たる遺族年金も逸失利益の対象にならないとしています。要するに遺族年金は、遺族の一身専属的権利として相続されないとしており、最高裁で確定した考えであり、どうにもなりません。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由第一点について
 本件は、交通事故により死亡した被害者の相続人である上告人らが、被害者は厚生年金保険法による遺族厚生年金及び市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金を受給していたから、被害者が生存していればその平均余命期間に受給することができた右各年金の現在額が被害者の逸失利益に当たるとして、被上告人らに対しその賠償等を求める事件である。

 遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法58条以下)ものであるところ、その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。

また,右年金は、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて、右年金は、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。

これらの点にかんがみると、遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。

 また、市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金は、市議会議員又は市議会議員であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(地方公務員等共済組合法163条以下、市議会議員共済会定款25条以下)ものであるが、受給権者の範囲、失権事由等の定めにおいて、遺族厚生年金と類似しており、受給権者自身は掛金及び特別掛金を拠出していないことからすると、遺族厚生年金とその目的、性格を同じくするものと解される。したがって、遺族厚生年金について述べた理は、共済給付金たる遺族年金においても異なるところはない。

 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。したがって、原判決に所論の違法はなく、原審の右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 金谷利廣 奥田昌道)