小松法律事務所

1年2ヶ月前事故での既存傷害による素因減額を否認した地裁判決紹介


○交通事故での局部に神経症状を残すものとして後遺障害等級14級程度の事案で、従前に同様の交通事故があると、保険会社は現在の症状は、従前事故によるか現在事故によるか不明であり、事故と現在障害との因果関係は認められないと主張することが良くあります。現在取扱中の事件でも、重度の神経症状が残存しているのですが、5年前と10年前の2回同様の交通事故があり、現在の症状は従前事故によるものか今回の事故によるかは不明として現在事故との因果関係を厳しく争われている事案を抱えています。

○神経症状として自賠責後遺障害等級14級が認定された事案で、保険会社側が、被害者は1年2ヶ月前の交通事故で腰椎捻挫を受傷しており、この既往症の腰痛と本件事故により症状の関係が不明であるとして、因果関係を否認し、さらに既往症としての腰痛について少なくとも20から30%の素因減額を主張した事案について、いずれも否認した令和2年1月18日大阪地裁判決(自保ジャーナル2068号143頁)関連部分を紹介します。

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主  文
1 被告は,原告に対し,104万2579円及びこれに対する平成28年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを20分し,その11を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,232万9030円及びこれに対する平成28年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,後記2(1)記載の交通事故により負傷したとして,被告に対し,民法709条,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償金及びこれに対する事故日である平成28年2月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件事故の態様,責任原因,過失相殺)について


         (中略)

2 争点2(本件事故によって原告に生じた傷害及び症状固定日)について
(1)
ア 原告は,本件事故により,腰椎打撲傷,右大腿打撲傷,胸椎打撲傷及び右手関節捻挫の傷害を負った旨主張し,被告は,右手打撲の傷害のみ認め,その余の傷害の発生を否認する。

イ まず,腰椎打撲傷について,被告は既往症として腰痛が生じていたのであり,本件事故により増悪したか不明であるといわざるを得ないので,本件事故による腰部の受傷を否認する。
 この点,証拠によると,①原告は,平成26年12月17日,交通事故(追突)に遭って,外傷性頸部症候群及び腰椎捻挫の傷害を負い,市立ひらかた病院に通院し,腰椎捻挫につき,平成27年12月28日,症状固定の診断を受けたこと(乙5[8,12,14ないし21,53ないし56,67ないし74頁]),②原告は,平成26年12月20日から,頸椎捻挫,背部挫傷及び腰椎捻挫の傷病名で,なつめ鍼灸整骨院への通院を開始し,背部挫傷については平成27年1月30日に,頸椎捻挫については同年4月30日にそれぞれ治癒し,腰椎捻挫については本件事故日に平成28年2月17日への通院をもって中止とされたこと(乙5[22ないし51頁]),③原告は,本件事故当日の平成28年2月17日,福田総合病院において,元々の腰痛が増悪したなどと訴え,腰部打撲及び右手打撲の診断を受けたこと(甲4,6,乙2)が認められる。

 上記②のとおり,原告は,本件事故当日まで,なつめ鍼灸整骨院へ通院しているが,原告が背負っていたリュックサックに入れていた水筒が凹んだことからうかがわれるとおり,本件事故の態様は原告の腰部に外力が加わるものであったこと,原告が,本件事故当日,福田総合病院で元々の腰痛が増悪した旨訴えていること,市立ひらかた病院の医師は,腰椎捻挫につき,本件事故の約1か月半前の平成27年12月28日に,症状固定の診断をしていること等の事情に照らせば,本件事故と腰椎捻挫との因果関係が認められる。

ウ 次に,右大腿打撲傷について検討するに,本件事故の態様に照らすと,右大腿を損傷しても不自然ではないこと,原告は,本件事故の翌日である平成28年2月18日には右大腿打撲傷を訴えていることに照らすと,本件事故と右大腿打撲傷との因果関係が認められる。

エ そして,胸椎打撲傷については,本件事故により発生した機序が明確ではない上,原告がそれに関連する痛みを訴えたことや,その治療がされた形跡もうかがわれないことに照らせば,本件事故と胸椎打撲傷との因果関係は認められない。

オ そして,右手については,原告は,福田総合病院では右手打撲と診断されているものの(甲4,乙2),みやのさか整形外科の診療録において,「右リスト背側に腫脹あり。」と記載され(乙3[6頁]),右手関節捻挫の診断を受けていることから,右手関節捻挫であると認められる。

(2) 上記(1)のとおり,本件事故により,原告には,腰椎打撲傷,右大腿打撲傷及び右手関節捻挫の傷害を負ったことが認められる。
 次に,症状固定日について検討するに,原告は,みやのさか整形外科への最終通院日である平成29年4月20日が症状固定日である旨主張する。

 しかし,原告の傷害は打撲や捻挫にとどまっていること,本件事故は,車両との衝突事故であるが,被告車が本件駐車場から本件道路に進出しようとする際のものであり,被告車が低速であったと考えられること,原告は,平成28年8月1日には,変わりがない旨述べ,同年9月13日には突然左肩甲部の痛みを訴える(乙3[12ないし14頁])など主訴が一貫しない部分が出ていること等の事情に照らせば,原告の症状は遅くとも平成28年8月末日には固定したものと認めるのが相当である。

3 争点3(原告の後遺障害の有無及び等級)について
 前記前提事実のとおり,損害保険料率算出機構は,原告の腰椎打撲傷後の腰痛,臀部痛等の症状について,後遺障害等級14級9号に該当する旨認定している。

 被告は,これに対し,腰部症状については,既往症として腰痛が生じていたのであり,本件事故により症状が増悪したか不明であることを前提に後遺障害の残存を否定する。しかし,既述のとおり,原告については,本件事故により,腰椎打撲が認められるところであり,被告の主張は前提を欠き,採用することができない。
 損害保険料率算出機構による上記認定に加え,原告は,本件事故当日から,福田総合病院で腰痛を訴え,症状固定日までその訴えは一貫していることに照らすと,原告には,腰椎打撲傷後の腰痛,臀部痛等につき,後遺障害等級14級9号の後遺障害が残存したものと認められる。


4 争点4(素因減額の有無)について
 被告は,原告には,本件事故発生日においても,平成26年12月の事故により生じた腰部症状が残存しており,少なくとも20%から30%の素因減額が行われるべきである旨主張する。

 確かに,本件事故発生日においても,平成26年12月の事故により生じた腰部症状が残存している点は否定することはできない。しかし,本件においては,原告の症状固定日を本件事故から約6か月半後の平成28年8月末日としており,従前の症状が原因で,治療期間が長期化したり,症状が重くなったと認めることはできないので,損害の公平な分担から素因減額をすることが相当であるとはいえず,被告の主張は採用することができない。


         (中略)