小松法律事務所

頚部神経根症と頚部脊髄症の症候による診断


○現在、交通事故後の頚部の障害について、外傷性の神経根症か、頚髄症のいずれかであると主張している案件があり、NEWMOOK整形外科№6特集/頚椎症の「[4]頚部神経根症と頚部脊髄症の症候による診断」からの備忘録です。

・頚部神経根症ならびに頚部脊髄症は、いずれも頚椎の変性過程で、神経根と脊髄がそれぞれ圧迫されて生ずる症候群と定義され、両者にはそれぞれの病態に特徴的な症候がある

・神経根症
頚部痛で発症するのが殆ど。手指足のしびれは遅れて生じることが多い
頚部痛とは、項部、肩甲上部、肩甲骨上角部、肩甲間部、肩甲骨部のいずれかの痛みを言う
指のしびれの部位が重要で、神経根症では片手にあるのが普通
しびれは、朝方に改善し、午後~夕方に強くなることが多い
初診時に頚部痛と頚部から上肢に放散する痛みがあれば神経根症と診断できる
スパーリング頚部圧迫テストが高率で陽性であり、神経学的異常所見が単一神経根の支配域に一致してみられる
神経根症における障害神経根の診断には、疼痛としびれの部位が神経学的所見に劣らず重要で、例えばC7神経根症では肩甲間部と上腕後側に痛みがあり、しびれは示あるいは中指で最も強い
一般に神経根症では会話中に頚椎の動きが少ない、頚をよく動かして症状を説明する患者は神経根症の可能性は少ない
頚椎を患側に側屈させ、同時に後屈させて頭部に下方への圧迫を加えると、頚部から肩、上肢、手に放散する疼痛が再現
筋力低下、腱反射低下、知覚障害が高率でみられる
C7神経根が罹患する頻度が最も高く、ついで、C6,C8,C5の順である。
肩甲上部の痛みは、C5あるいはC6神経根症であることが多く、同時に上腕・肘・前腕の橈骨側に痛みがあれば殆どC6神経根症
肩の三角筋部の痛みはC5、肩甲間部・肩甲骨部の痛みはC7あるいはC8神経根症、同時に上腕・肘後ろ側の痛みがあればC7、上腕・肘・前腕の尺骨側の痛みはC8
しびれ、pinprickでの知覚障害がどの指が最も強いかでの判断は、母指はC6、示指あるいは中指はC7、小指はC8とほぼ判断できる
筋力低下および腱反射異常では、
三角筋および上腕二頭筋に筋力低下があればC5あるいはC6、上腕三頭筋の筋力低下はC7、手内在筋筋力低下はC8、
上腕二頭筋腱反射低下はC5あるいはC6、上腕三頭筋腱反射低下はC7あるいはC8、
C5あるいはC6神経根症で三角筋の著しい筋力低下が長期化して肩関節に拘縮と痛みを併発することがある

・頚髄症
手指のしびれで発症することが最も多い。左右のいずれかに生じて、まもなく両側性となる例が多い。頚部痛での発症は皆無といってよい。
指のしびれの部位が重要で、脊髄症では両手にあるのが普通
しびれは常時あり、強さも殆ど変動しない
脊髄症では、症状が灰白質あるいは白質の障害の2種類に由来することの理解が重要
初期症状として頻度の高い手指のしびれが灰白質由来の症状、続いて手指のもつれ等の手指巧緻運動障害が現れる
白質由来の症状は、足の引きずり・もつれといった痙性歩行、排尿障害
頚椎を後屈させることで、手指さらには下肢のしびれを再現できる
脊髄症の重症例では痙性歩行がみられ、歩行に異常がなくても片脚起立ができないか不安定であることが多い
脊髄症は、C5-6椎間が罹患する頻度が最も高く、次いでC4-5、C3-4、C6-7
しびれの初発指が、橈骨側の指ないし全指で始まっていればC3-4椎間、
尺骨側2~4指が初発すれば殆どがC5-6椎間、小指が初発すればC6-7椎間例もあるが頻度は低い
腱反射異常・筋力低下・知覚障害
上腕三頭筋腱反射低下で85%、上腕三頭筋筋力低下で79%、尺骨側指(小指のみを除く)知覚障害で96%の確率でC5-6椎間が責任椎間板高位と推測