小松法律事務所

高次脳機能障害5級に見守り介護費用日額4000円を認めた地裁判決紹介


○被害者(男・症状固定時63歳・マンション管理人)の後遺障害(高次脳機能障害5級2号該当)の将来の介護費につき、症状固定時からの平均余命20年(ライプニッツ係数12・4622)にわたって、監視・見守りの介護料が控えめに算定しても日額6000円の将来介護費を請求しました。

○これに対し、同人は身体的な機能について特段支障はなく、身体的な介護の必要性が認められないが、高次脳機能障害により人格変化が生じているため、日常生活をするうえで見守り、声かけ、促し等が必要であり、同人の介護を行っている同人の妻にとっても身体的な負担はあまりないものの、精神的には相当な負担になると思われるが、被害者の症状固定時に60歳である妻は高血圧症、慢性腎臓病、腎不全、脂質異常症、高尿酸血症等の持病があり、その後うつ病の治療も受けている状態であることからすれば、被害者が週2回デイサービスの施設に通所するようになり、要介護2に認定されていることを考慮しても、症状固定時から平均余命20年にわたって監視、見守りの介護料として1日当たり4000円を認めるのが相当であるとした平成23年9月16日名古屋地裁判決(自保ジャーナル1858号21頁)関連部分を紹介します。

*********************************************

主   文
一 被告らは、原告に対し、連帯して4745万0065円及びこれに対する平成21年4月11日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを2分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは、原告に対し、連帯して9688万2051円及びうち9430万8419円に対する平成21年4月11日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、被告乙山春子(以下「被告春子」という。)の起こした交通事故(以下「本件事故」という。)により原告が傷害を負ったことにつき、被告春子については民法709条の不法行為責任に基づき、被告乙山夏男(以下「被告夏男」という。)については自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の運行供用者責任に基づき、損害賠償を求める事案である。

一 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

     (中略)

二 争点
(1)過失相殺

ア 被告らの主張

     (中略)

(キ)将来付添費(介護料) 2729万2218円
 原告の症状固定時からの平均余命20年(ライプニッツ係数12・4622)にわたって、監視・見守りの介護料が控えめに算定しても日額6000円を下回るものではない。
 したがって、症状固定後の介護料は、6000円
日×365日×12.4622=2729万2218である。

     (中略)

第三 当裁判所の判断
一 争点(1)(過失相殺)について

     (中略)

二 争点(2)(損害)について

     (中略)

(7)将来付添費(介護料) 1819方4812円
ア 証拠(甲12、13、15~17、28~32、証人甲野花子)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア)原告は、後遺障害等級五級二号と認定された(甲17)。

(イ)原告は、リハビリテーションセンター病院の丙川松男医師により、平成20年8月10日の時点(当時65歳)において、運動機能は正常で、身の回り動作能力にはほぼ問題がなく自立できる状態であった「(入浴動作につき「ときどき見守り・声かけ」が必要とされ、公共交通機関の利用については自立できていないが、これは高次脳機能障害の影響によるものと推認される。)(甲12)。

 他方、認知・情緒・行動障害については、21項目のうち、「性的な異常行動・性的差恥心の欠如」については「なし」、「新しいことを覚えられない」「自発性低下、声かけが必要」「周囲の人との意思疎通を上手に行えない」「感情の変動がはげしく、気分が変わりやすい」「ふさぎこむ、気分がおちこむ」「特に理由もなく不安を感じている」「幻覚や妄想がある」の七項目については「障害はあるが軽度であり、生活には支障がない」になっているが」「以前に覚えていたことを思い出せない」「疲れやすく、すぐ居眠りする」「気が散りやすく、飽きっぽい」「発想が幼児的、自己中心的」「話がまわりくどく、考えを相手に伝えられない」「複数の作業を同時に行えない」「行動を計画したり、正確に遂行することができない」「感情や言動をコントロールできない」「暴言・暴力」「夜、寝つけない、眠れない」「受傷前と違っていることを自分では認めない」の11項目が中等度で「代償手段の工夫や家族等の援助で対処できている」ものであり、「粘着性、しつこい、こだわる」「ちょっとしたことですぐ怒る」の二項目が重度で「深刻な生活困難さを起こす原因となっている」と判断されている(甲12)。(TKC編注:「差恥心」は「羞恥心」の間違いだと思われる。)

 そして、これらの障害の結果、戸締まりや電気の消し忘れなどに過度にこだわり、何度も確認したり、夜間も中途覚醒して確認して回るが、翌日には覚えていないということが生じている。そして、精神科での治療により易怒性は徐々に軽減してきたが、自発性が低下し、入浴も促さないと行わないようになっている。自宅では、家族の配慮で保護的環境下にあり、こだわり、強迫体験があってもパニックに陥ることはなくなったが、社会参加の上では、記憶障害(思い違い、思い込み)と強迫症状のため見守りを必要とする状態にある。

(ウ)原告は、平成20年9月5日までに、名古屋市から要介護一の認定を受けた(乙25の4、証人甲野花子27、30頁)。

(エ)原告は、平成23年3月16日、要介護二の認定を受けた(甲32添付資料一)。

(オ)原告は、要介護一の認定を受け、介護保険を利用してデイサービスなどの施設を利用することもでき、原告の妻である花子もそれを望んでいたが、原告が高次脳機能障害のために病識に欠け、施設の利用を拒否していたために、それが実現していなかった。ようやく、平成23年3月からデイサービスの施設に週二回通所するようになり、通所日については花子の介護の負担が減るようになった。上記のとおり、要介護二の認定を受けたので、介護保険の利用でより多くのデイサービスの施設への通所も可能である(平成23年4月は、週2回、合計9回の通所でサービス6633単位の利用となっているが、区分支給限度基準額は1万6580単位/月であり、まだ相当に余裕がある状態である。)が、通所を無理強いして原告が通所自体をやめてしまうことを恐れて、現在は週2回の通所にとどまっているという状態である(甲32)。

(カ)原告の妻である花子は、昭和21年9月22日生まれであり、原告の症状固定時である平成19年4月5日時点において60歳であった。
 花子は、平成6年1月以降、おときき山泌尿器・皮フ科で治療を受けており、現在は、高血圧症、慢性腎臓病、腎不全、脂質異常症、高尿酸血症などを患っている。腎不全は徐々に進行しており、原告の介護で精神、身体に負担がかかると更に腎不全や高血圧症が悪化する可能性がある(甲29)。

 また、花子は、平成21年7月29日から同心療科でうつ病の治療を受けている。抑うつ気分、精神運動抑制、不眠、不安・焦燥感が動揺性慢性に認められるため、原告の介護等の負担により症状がさらに増悪しやすいと診断されている(甲30)。

イ 以上の事実を前提に、原告の介護の必要性及び介護費用の相当額について判断する。
 上記認定のとおり、原告は、身体的な機能については特段支障はない。したがって、身体的な介護をする必要性は認められない。
 しかし、上記のとおり、高次脳機能障害により人格変化が生じているため、日常生活をする上でも、見守りをする必要がある。原告は、身体の機能自体には支障がなく、促されれば日常生活の必要な行動はできるため、介護の主たる内容は、自発性の低下した原告に対し、入浴等の日常的に必要な行為のほぼ全般にわたって、それを必要な時ごとに促すことと、人格変化のために話がくどくなった原告の話を聞いてやることなどである。

これらは、介護といっても、見守り、声かけ、あるいは話を聞いてやるといったことであるから、身体的な負担は余りないことである。また、原告の介護をしている花子は、本件事故前から家事に従事していた(証人甲野花子20頁)ところ、上記のような介護は、従前家庭内で行っていた家事に、原告がすべきことについての促しなどが加わるだけであるから、花子において、特段それにより逸失利益が生じるようなものではない。

しかし、日常生活について細かく促さねばならなかったり、くどくどとした話を聞かなければならず、そういう形で本件事故前とは人格の変わってしまった原告と密着した生活をしなければならないことは、原告の妻である花子にとって精神的には相当な負担になるものと認められる。また、原告を長時間1人にしておくことも心配であるから、花子が時間的に拘束を受けることになり、その点でも負担感が増すと認められる。

 そして、このような負担に加え、花子が原告の症状固定時である平成19年4月5日時点において60歳であったこと、上記認定のとおり、花子には高血圧症、慢性腎臓病、腎不全、脂質異常症、高尿酸血症などの持病があり、腎不全は徐々に進行しており、原告の介護で精神、身体に負担がかかると更に腎不全や高血圧症が悪化する可能性があること、うつ病の治療も受けている状態であることなどからすれば、平成23年4月以降は原告が週2回デイサービスの施設に通所するようになり、花子の負担がその分は軽くなったこと,原告が要介護2に認定され、介護保険によってもっとデイサービスを受けることも可能であることを考慮しても、原告の症状固定時からの平均余命20年(ライプニッツ係数12・4622)にわたって、監視、見守りの介護料として1日4000円を認めるが相当である。
 したがって、症状固定後の介護料は、4000円/日×365日×12.4622=1819万4622円である。


     (中略)

(13)以上によれば、損害額残額は4745万0065円である。

三 以上によれば、原告の請求は被告らに対し連帯して4745万0065円及びこれに対する平成21年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判官 寺西和史

別紙〔略〕