小松法律事務所

就労可能期間終期についての判例変遷紹介3


○「就労可能期間終期についての判例変遷紹介2」の続きで、被害者A(男、17才、工員)の死亡による逸失利益請求における就労期間終期を67歳とした昭和51年3月26日名古屋地裁判決(交通事故民事裁判例集9巻2号448頁)関連部分を紹介します。

○この判例は、死亡当時の年収額をもって算定の基礎とすることは、若年時における極めて低い年収額で固定化することであって不合理であり、全就労期間を通じての年収額は賃金センサス全年齢男子労働者の平均給与額とするのが相当であるとして、就労可能期間67才まで50年間、生活費控除割合50%、中間利息控除方法ライプニッツ方式を採用して、逸失利益として約2112万円を認めました。

○逸失利益2112万円、慰謝料650万円、葬儀費35万円、物損18万円の合計2816万円の損害を認めましたが、被害者Aの過失割合を6割と認定し、過失相殺後残金は1126万円とし、既払自賠責保険金1000万円を差し引き、最終的損害は126万円で弁護士費用12万円を加えた138万円の支払を命じました。

○令和5年現在の自賠責死亡保険金限度額は3000万円、死亡慰謝料基準は一家の支柱でない場合2000~2500万円に引き上げられています。昭和50年当時から自賠責保険金は3倍、死亡慰謝料基準額は4倍程度になっています。しかし、逸失利益請求での就労期間終期67歳は変わっていません。平均余命も昭和50年当時から14年程度上がっているのに就労期間終期だけは67歳を当然の前提としている状況を変えたいところです。

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主   文
被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金138万円および内金126万円に対する昭和50年1月29日から、内金12万円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
原告(反訴被告)その余の請求を棄却する。
原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金41万7400円および内金37万9400円に対する昭和50年1月29日から、内金3万8000円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを10分し、その7を原告(反訴被告)の負担とし、その3を被告(反訴原告)の負担とする。
この判決は、原告(反訴被告)および被告(反訴原告)の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事   実
第一 当事者の求めた裁判

一 原告(反訴被告・以下単に原告という。)
(一) 本訴について
 被告は、原告に対し、545万3952円およびこれに対する昭和50年1月29日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は被告の負担とする。
 仮執行の宣言。

     (中略)

理   由

     (中略)

(五) 損害
1 逸失利益 2112万円(端数調整)
 成立に争いのない甲第2号証、第3号証の2、弁論の全趣旨によれば、訴外亡誠は、本件事故当時17才の健康な男子で、名古屋市内の大脇板金工作所に勤務していたものであることが認められるところ、同訴外人の逸失利益の算定については、次の方法によるのが相当と認められる。

(1) 就労可能期間 50年間
事故当時の年齢17才から67才までの50年間

(2) 年収 231万4817円
 昭和49年賃金センサス第一表、産業計、企業計、学歴計、全年齢男子労働者の平均給与年額204万6700円に、労働省発表「昭和50年民間主要企業春季賃上げ状況」による賃上げ率13・1パーセント分を加えたもの。
 なお、成立に争いのない甲第3号証の1、2によれば、訴外亡Aの昭和49年の年収は90万6508円であることが認められるが、同年収額をもつて本件逸失利益算定の基礎とすることは、将来の長期にわたる全就労可能期間を通しての年収額を、若年時におけるきわめて低い年収額で固定化するものであつて不合理であり、同訴外人の右年収額が昭和49年賃金センサスによる17才男子労働者の平均給与年額78万9800円を上廻るもので、同訴外人は少くとも対応年齢男子労働者の平均的労働能力を有していると推認されること等を考慮に入れると、同訴外人の全就労可能期間を通じての年収額は賃金センサスによる全年齢男子労働者の平均給与年額とするのが相当である。

(3) 生活費の控除 50パーセント

(4) 中間利息の控除 ライプニツツ方式
 なお、中間利息の控除方法に関し、原告はホフマン方式を主張しているが、複利計算を用いるライプニツツ方式又は単利計算を用いるホフマン方式のいずれを採用するかは結局損害の公平な負担という見地から決められるべきものと考えられるところ、本件の場合、訴外亡誠の収入について、同訴外人の事故当時である17才時の現実の収入額ではなく、これよりはるかに多額となる賃金センサスによる全年齢男子労働者の平均収入額を基準としていること、同訴外人の就労可能期間は50年であるが、ホフマン方式(年別、複式、利率年5分)によれば、就労可能期間が36年以上の場合、賠償金元本から生ずる年5分の利息額が年間逸失利益額を越えるという不合理な結果になること、等を考慮すると、ライプニツツ方式を採用するのが相当である。

(5) 逸失利益の現価 2112万8492円
231万4817×(1-(50÷100))×18.255=約2112万8492円