小松法律事務所

車両修理費約42万円に25万円の評価損を認めた地裁(控訴審)判決紹介


○「修理費の30%相当額を自動車評価損と認めた地裁判決紹介」記載の通り、一般に修理費の3分の1程度が評価損(事故格落ち損)と言われていますが、実務では、この修理費3分の1の評価損が認められる例は、事故車両が新車登録から余り期間を経ておらず、且つ、高級車でないとなかなか認められません。

○修理費用42万5559円のところ、評価損25万円を認めた令和2年8月24日札幌地裁判決(交通事故民事裁判例集53巻4号990頁)を紹介します。原審は簡裁で、約60万円の損害を認めていますが、控訴審では約15万円アップした約75万円を認めていますので、評価損が10数万円アップしたようです。

○控訴人(原告)は、評価損立証資料として24万1000円の一般財団法人日本自動車査定協会査定書、新たな中古車購入の際の下取り査定での40万3000円に相当する減点を挙げていますが、判決はいずれも直接には採用せず、「本件事故時の控訴人車の状況及び希少性に加え、控訴人車の修理費用として42万5559円を要したこと、控訴人車の評価損について上記の各査定がされていることを考え併せると、本件事故により控訴人車に25万円の評価損が生じた」としています。

○新車登録後6か月程度、走行距離は3751km程度、北海道内には1台しかない貴重な車両という点が考慮されたようで、評価損を大きく認められるには、まだハードルが高そうです。しかし、修理費用の2分の1以上の評価損を認めた例として、被害者側にとっては、貴重な判決です。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、75万6743円及びこれに対する平成28年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを4分し、その1を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、103万1743円及びこれに対する平成28年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 平成28年12月7日、控訴人が所有し、甲野春子が運転する普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)と被控訴人が運転する普通貨物自動車(以下「被控訴人車」という。)との間の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。本件は、控訴人が、本件事故は専ら被控訴人の過失によって発生したと主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づき、控訴人車の修理費用及び弁護士費用等の合計103万1743円並びにこれに対する本件事故の日である平成28年12月7日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求につき、60万8548円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、控訴人は、敗訴部分を不服として本件控訴をした。

2 前提事実(争いがない事実又は証拠により容易に認定できる事実)
 原判決の「事実及び理由」の第2の1(原判決2頁1~10行目)記載のとおりであるから、これを引用する。

3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)控訴人車の修理費用
 原判決の「事実及び理由」の第2の2(1)(原判決2頁12~18行目)記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)控訴人車に発生した評価損
(控訴人の主張)
ア 本件事故により、控訴人車はリヤフレームクロスメンバーにまで損傷が及んでおり、リヤフレームクロスメンバーを交換しても、なお、技術上の限界から機能上の損傷が完全には回復していない可能性を否定できない。
 本件事故後、控訴人車の排気音に違和感が生じ、かつ、まっすぐ走行しないという現象が発生しており、直接的な修理対象とはならなくとも、控訴人車に損害が生じている。

イ 控訴人車はクライスラーのジープラングラーサハラという人気車種であり、控訴人車は北海道内には1台しかない貴重な車両である。
 また、本件事故当時、初度登録から6か月程度、走行距離は3751km程度にすぎなかった。

ウ 控訴人が控訴人車を下取車として別の自動車を購入した際、控訴人車の下取価格を査定するに当たり、控訴人車の後部に修復歴があるという理由で、40万3000円に相当する減点がされ、結果的に下取価格は、45万円下落した。

エ 以上に加え、控訴人車が控訴人代表者の妻である甲野春子と中学生の子供を乗せる車であることを考慮すると、控訴人車に生じた評価損は50万円を下ることはない。
 少なくとも下取価格の減価という形で控訴人に現実に発生した40万3000円に相当する評価損は認められるべきである。

(被控訴人の主張)
 控訴人車に評価損が生じていることは争う。
 仮に、評価損が生じているとしても、その金額は8万5000円が相当である。控訴人車の下取りの際に、40万3000円相当の減価がされたのだとしても、かかる評価は、車の買取りを扱う業者の内の一つがしたものにすぎず、その評価の根拠について合理的客観的説明もないから、評価損の認定根拠とはならない。

(3)査定料
(控訴人の主張)
 本件訴訟に先立つ本件事故に係る調停において被控訴人が評価損の発生を争ったことにより、控訴人は、本件訴訟提起に当たり、一般財団法人日本自動車査定協会において評価損の有無の査定を行わざるを得ず、査定料1万2390円の損害を被った。

(被控訴人の主張)
 争う。

(4)弁護士費用
(控訴人の主張)
 控訴人は、被控訴人が自己の責任を認めないことから、本件訴訟の追行を弁護士に委任せざるを得なかった。
 かかる本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は、上記(1)~(3)の損害合計の1割を下回ることはない。

(被控訴人の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
 本件事故の事故態様は、上記第2の2記載のとおりであり、本件事故は、専ら被控訴人の前方注視義務違反によって発生したものと認められるから、被控訴人は、民法709条に基づき、本件事故により控訴人に発生した損害を賠償する義務を負う。
 以下、控訴人に生じた損害の額について検討する。
1 争点(1)(控訴人車の修理費用)について
 争点(1)についての当裁判所の判断は、原判決の「事実及び理由」の第3の1(原判決3頁16行目~4頁13行目)記載のとおりであるから、これを引用する。

2 争点(2)(控訴人車に発生した評価損)について
(1)一般に、交通事故等により車両が損傷した場合、当該車両の修理がされたとしても、なお、機能や外観に欠陥が残存することがあり、また、事故歴や修復歴があること自体によって、隠れた欠陥があるかもしれない、縁起が悪いなどといった評価を受け、中古車取引市場での価格が低下することがあり得るところ、本件では、かかる意味における控訴人車の評価損の存否及びその額が問題となるから、以下検討する。

(2)控訴人は、控訴人車の機能について、本件事故後、排気音に違和感が生じ、かつ、まっすぐ走行しないという現象(以下「本件現象」という。)が発生している旨主張し、控訴人代表者も原審の尋問において、これに沿う供述をしている(甲17)。
 しかし、控訴人車に本件現象が生じたことを示す客観的な証拠はない。かえって、控訴人が控訴人車を下取りに出した際、控訴人代表者は控訴人車に本件現象が存在することを伝えており、その上で、下取先の従業員が控訴人車を運転してみたところ、支障がないとの判断がされたこと(甲17)が認められるばかりか、控訴人代表者自身、原審の尋問において、本件現象を感じたのは自分だけであり、自分の感覚が特殊だと思う旨述べていること(甲17)に鑑みると、控訴人車について、本件事故によって本件現象が生じるようになったと認めることはできず、控訴人車に修理後も機能上の欠陥が残存したとはいえない。

(3)控訴人は、控訴人車に修復歴があることによって、評価損が生じた旨主張する。
 控訴人車の初度登録は平成28年6月30日であり(甲2)、本件事故の時点で、初度登録から半年足らずの期間しか経過しておらず、走行距離も3761kmであったこと(甲4の2)を考慮すると、本件事故の時点において控訴人車には相応の残存価値があったと認められる。また、控訴人車は、クライスラー社のジープラングラーサハラという車種であり、2ドアのタイプで、ボンネットに限定車両であることを示す星のマークがあり、車体の色も限定車両として販売された色であるという点で、北海道内でも数台あるかどうかという希少な車両であること(甲8、9の1~8、16、17、弁論の全趣旨)、本件事故による損傷がリヤフレームクロスメンバーという車体の骨格部分に及んでいることに加え、本件訴訟の係属中に控訴人代表者が控訴人車を下取りに出した際、後記(4)のとおり控訴人車の後部に修復歴があることを理由に、下取価格が40万3000円差し引かれていること(甲15、18)を考慮すると、控訴人車には、本件事故により損傷を受けたことが原因で、中古車取引市場での価格の低下が生じ、評価損が生じたと認めるのが相当である。

(4)そこで、評価損の価額について検討する。
 控訴人は、控訴人車に生じた評価損は50万円を下ることはなく、少なくとも40万3000円である旨主張する。
 しかし、控訴人車の評価損が50万円であると認めるに足りる証拠はない。
 控訴人車の評価損については、事故損傷による減価額を24万1000円とする一般財団法人日本自動車査定協会の査定が存在する(甲6)。また、控訴人は、本件訴訟提起後、株式会社Bから新たに中古車を購入し、その際に控訴人車を下取りに出しているところ、下取価格の査定において、控訴人車の後部に修復歴があることを理由に、40万3000円(1点当たり1000円の減価点数403点分)が差し引かれている(甲15、18)。

 まず、一般財団法人日本自動車査定協会による査定(甲6)は、控訴人車の現況を実際に確認して査定されたものではなく(甲17)、査定の具体的根拠も明らかでないことから、同査定から直ちに控訴人車の評価損を認定することはできない。一方、下取価格の査定は、株式会社Bから新たに車両を購入することを前提とした査定であって、同査定額が控訴人車の中古車取引市場での価格と必ずしも一致するものということはできず、同査定から直ちに控訴人車の評価損を認定することもできない。

 以上のとおり、本件において控訴人車の評価損の価額を直ちに認定することのできる証拠は存在しないところ、上記(3)で認定した本件事故時の控訴人車の状況及び希少性に加え、控訴人車の修理費用として42万5559円を要したこと、控訴人車の評価損について上記の各査定がされていることを考え併せると、本件事故により控訴人車に25万円の評価損が生じたと認めるのが相当である。

3 争点(3)(査定料)について
 上記2で認定したとおり,控訴人車には本件事故により評価損が発生したと認められるところ、一般財団法人日本自動車査定協会の事故減価額証明書(甲6)は評価損の発生及びその価額を認定するに当たって一定の参考となる資料であるということができるから、事故減価額証明書を取得するために要した査定料1万2390円(甲7の1・2)は、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

4 争点(4)(弁護士費用)について
 上記1~3で認定した控訴人の損害額の合計は68万7949円であり、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、上記損害額の約1割に相当する6万8794円であると認めるのが相当である。 

第4 結論
 以上によれば、控訴人の請求は、75万6743円及びこれに対する平成28年12月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の請求を60万8548円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余を棄却した原判決は一部失当であって、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとし、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 裁判官 武部知子 目代真理 川野裕矢