小松法律事務所

交通事故損害賠償請求権に対する仮差押効力について判断した判決紹介序


○自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合(交通事故)における損害賠償(人身損害)を保障する制度として自動車損害賠償保障法(自賠法)がありますが、その条文に関連する事件として、令和4年4月7日東京高裁判決(判時2600号43頁)を紹介します。関連自賠法条文は以下の通りです。

第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
 第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
2 被保険者が被害者に損害の賠償をした場合において、保険会社が被保険者に対してその損害をてん補したときは、保険会社は、そのてん補した金額の限度において、被害者に対する前項の支払の義務を免かれる。
3 第1項の規定により保険会社が被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、保険契約者又は被保険者の悪意によつて損害が生じた場合を除き、保険会社が、責任保険の契約に基づき被保険者に対して損害をてん補したものとみなす。
4 保険会社は、保険契約者又は被保険者の悪意によつて損害が生じた場合において、第1項の規定により被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、その支払つた金額について、政府に対して補償を求めることができる。

第17条(被害者に対する仮渡金)
 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を第十六条第1項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
(略)

第18条(差押の禁止)
 第16条第1項及び前条第1項の規定による請求権は、差し押えることができない。


○自賠法第16条は交通事故被害者の加害者締結自賠責保険会社に対する損害賠償請求権に規定で、被害者直接請求権と呼ばれるもので、17条はその仮渡請求に関する規定でいずれも交通事故被害者の自賠責保険会社に対する請求権です。これについて自賠法第16条で差押禁止が規定されています。これは自賠責保険金は、交通事故被害者の生活保障のための保険制度で、被害者が直接支払を受けることを保障したものなので差押は禁止されると説明されています。

○令和4年4月7日東京高裁判決(判時2600号43頁)は、交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の仮差押えがされた場合、その効力は自動車損害賠償保障法16条1項に基づく直接請求権にも及ぶから、加害者は、仮差押えの発令を認識していた保険会社がした同項の直接請求権に基づく自賠責保険金の支払の効力を主張することはできないとしました。

○事案は、第1審原告は、亡Gの子であるCから強盗被害を受け、その後Cの父であった亡Gが、第1審被告運転の車両と亡G運転の車両とが衝突した交通事故により死亡し、亡Gの妻、その子ら相続人4名が、第1審被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を相続したため、第1審原告が、第1審被告に対し、本件仮差押え命令により転付されたCらの第1審被告に対する本件事故に基づく損害賠償請求権に係る各損害金等の支払を求めたものです。

○令和4年4月7日東京高裁判決(判時2600号43頁)は、上記事件の第一審平成30年9月13日千葉地裁判決、控訴審平成31年2月27日東京高裁判決、令和3年1月12日最高裁判決を経て、最高裁での破棄差戻判決を受けての差戻審としての判決です。前記自賠法第18条差押禁止規定の解釈が分かれ、最高裁の判決によりそれを前提とした判決で、滅多にない事例ですが、全判決を流れを見て、説明していきます。