物損交通事故では原則として慰謝料は発生しない根拠の最高裁判決紹介
○この最高裁判決は物損交通事故事案ではありませんが、商取引に関する契約上の金員の支払を求める訴訟において、偽証等の不法行為があつたため敗訴したとしても、それによつて蒙る損害は、一般には財産上の損害だけであり、そのほかになお慰藉を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには、侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならないとしています。
○この慰謝料発生要件の「侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情」とは、一例としてペットを交通事故で失った場合が該当します。「交通事故でのペットへの傷害に対する慰謝料等の請求を認めた高裁判決紹介」で紹介した平成20年9月30日名古屋高裁判決(交通事故民事裁判例集41巻5号1186頁)では、「近時,犬などの愛玩動物は,飼い主との間の交流を通じて,家族の一員であるかのように,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないし,このような事態は,広く世上に知られているところでもある(公知の事実)。そして,そのような動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより,死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには,飼い主のかかる精神的苦痛は,主観的な感情にとどまらず,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ,また,このような場合には,財産的損害の賠償によっては慰謝されることのできない精神的苦痛があるものと見るべきであるから,財産的損害に対する損害賠償のほかに,慰謝料を請求することができるとするのが相当である。」としています。
*********************************************
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告理由第一点について。
原審は,上告人主張の訴訟は商取引に関する契約上の金員の支払を求めるもので、その訴訟で敗訴したため上告人のこうむる損害は、一般には財産上の損害だけであり、そのほかになお慰藉を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには、被害者(上告人)が侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならないところ、本件では右の如き特別の事情の存在を認めるに足る資料もないと判断して、上告人の本訴請求を排斥しているのであつて、原審の右判断は正当であり、右判断の過程に所論の違法はない。所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するに帰し、採るを得ない。
同第二点について。
所論は、原審の裁量に属する証拠申出の採否を非難するに帰し、採るを得ない。
同第三点について。
原判決の判断の過程には何ら違法の点はない。所論も、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するに帰し、採るを得ない。
よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎