小松法律事務所

20代専業主婦の67歳まで逸失利益を認めた地裁判決紹介


○「30代専業主婦の67歳まで逸失利益を認めた地裁判決紹介」の続きで専業主婦の逸失利益についての判例紹介で、今回は、20代専業主婦の後遺障害に伴う逸失利益を認めた平成30年5月29日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。

○原告は、左示指,左中指の2指の可動域が,健側(右示指,右中指)の可動域角度の2分の1以下に制限により「1手のおや指以外の2の手指の用を廃したもの」として自賠責後遺障害第10級7号に該当し、67歳まで41年間・労働能力喪失率27%での逸失利益として1740万3648円を請求し、被告側では原告に主婦性が認められないことや症状固定前の原告の生活状況からすれば,原告の労働能力喪失率が27%もあったと考えるのは不合理であると主張していました。

○判決は、原告は,夫や子らと同居する専業主婦であることから,基礎収入については,症状固定時である平成27年の賃金センサス・女・学歴系全年齢平均372万7100円とし原告の後遺障害は,10級7号に該当する左中手骨開放骨折による左手指の関節機能障害(甲13)で労働能力喪失率は27%,労働能力喪失期間は症状固定時の26歳から67歳までの41年間(ライプニッツ係数17.2944)とするのが相当として、原告主張金額をそのまま認めました。

○損害トータルで2788万0105円の請求のうち2526万0927円を認めた判例で、認容率は90%の原告側の大勝利と言える判決です。

********************************************

主   文
1 被告Y2は,原告に対し,2526万0927円及びこれに対する平成26年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Y2に対するその余の請求を棄却する。
3 原告の被告Y1に対する請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを10分し,その9を被告Y2の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して,2788万0105円及びこれに対する平成26年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告Y2が運転し原告が後部座席に同乗する普通自動二輪車(以下「Y2車」という。)と被告Y1が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間の交通事故(以下「本件事故」という。)について,原告が,被告らに対し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償金2788万0105円及びこれに対する平成26年1月21日(本件事故日)以降の遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

         (中略)

(4) 原告は,自賠責保険の後遺障害等級認定において,左示指,左中指の2指の可動域が,健側(右示指,右中指)の可動域角度の2分の1以下に制限されることになり,「1手のおや指以外の2の手指の用を廃したもの」として自賠法施行令別表第二第10級7号に該当し,左手痛,左示指から環指手背部のしびれについては前記等級に含めての評価となると判断された(甲13)。

         (中略)

(原告主張)
カ 休業損害 359万2317円
 原告は,本件事故当時,原告の子とともに2人暮らしをする専業主婦であった。入院中は家事労働はできず,退院後についても,原告の利き手が左手であったことから,平成26年9月までは左手で物を持つことすらできなかったため,入院時と同様家事労働はほとんどできなかった。同年10月以降も,かろうじて物を持てる程度で,料理をしたり,細かい作業をすることはできなかったため,家事労働に大きな支障がある状態だった。
 ・事故日~平成26年3月27日
 364万1200円(平成26年度・女・平均賃金)×66日÷365日=65万8408円
 ・同年3月28日~同年9月30日
 364万1200円×187日÷365日×80%=149万2393円
 ・同年10月1日~平成27年7月16日
 364万1200円×289÷365日×50%=144万1516円
 ・以上合計359万2317円

キ 後遺障害逸失利益 1740万3648円
 372万7100円(平成27年度・女・平均賃金)×27%(後遺障害等級10級)×17.2944(67歳-症状固定時26歳=41年)=1740万3648円

         (中略)

(被告主張)
カ 休業損害
 否認する。
 医療記録によれば,本件事故当時,原告は両親及び4人の子と同居中(配偶者は服役中)とされており,原告は,4人の子がいるのに被告Y2と友人のところに遊びに行ってそのまま外泊してしまうような生活を送っていたことからすると,原告宅の家事は両親により行われていたか,少なくとも原告のみで家事が行われていたとは到底考え難い。
 原告は入院中もたびたび外泊を繰り返すなどしており,原告の傷害からは左手が不自由であるにとどまることなどからすると,入院期間を除き休業の割合が100%であったとはみられず,医療記録によれば,平成26年4月頃にはほとんど就労できるようになっていたとみるのが自然である。

キ 後遺障害逸失利益
 原告に主婦性が認められないことや症状固定前の原告の生活状況からすれば,原告の労働能力喪失率が27%もあったと考えるのは不合理である。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(事故態様及び過失の有無・過失割合)について


         (中略)

2 争点(2)(原告の損害)について
(1) 治療費 245万6000円

         (中略)

(6) 休業損害 118万3139円
 証拠(甲27,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,本件事故当時,二男と2人で暮らしており,二男を託児所に預けて飲食店で仕事をしながら家事育児を行っていたこと,②原告は,入院中,家事労働ができず,退院後についても,利き手が左手であり,平成26年9月までは左手で物を持つことすらできなかったため,家事労働に一定の支障があったこと,③同年10月以降も,家事労働に一定の支障があったことが認められる。

 上記認定事実によれば,原告の基礎収入額は平成26年の賃金センサス・女・学歴系全年齢平均の364万1200円とするのが相当であり,入院期間(合計31日)は100%,入院期間を除いた平成27年7月16日(症状固定日)までの期間(合計146日)は平均して60%の休業損害を認めるのが相当である。
 (計算式)
 ・364万1200円÷365日×31日≒30万9252円
 ・364万1200円÷365日×146日×0.6≒87万3887円
 ・以上合計118万3139円

(7) 後遺障害逸失利益 1740万3648円
 原告は,夫や子らと同居する専業主婦であることから,基礎収入については,症状固定時である平成27年の賃金センサス・女・学歴系全年齢平均372万7100円とするのが相当である。
 また,原告の後遺障害は,10級7号に該当する左中手骨開放骨折による左手指の関節機能障害(甲13)であると認めるのが相当であるから,労働能力喪失率は27%,労働能力喪失期間は症状固定時の26歳から67歳までの41年間(ライプニッツ係数17.2944)とするのが相当である。

 (計算式)372万7100円×0.27×17.2944=1740万3648円

(8) 傷害慰謝料 195万円
 原告の傷害の内容・程度等によれば,入通院期間等によれば,障害慰謝料として195万円を認めるのが相当である。

(9) 後遺障害慰謝料 550万円
 原告の後遺障害の内容・程度等によれば,後遺障害慰謝料として550万円を認めるのが相当である。

(10) 小計 2862万5927円

(11) 既払金 -565万5000円

(12) 控除後 2297万0927円

(13) 弁護士費用 229万円
 本件事案の内容,認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は229万円とするのが相当である。

(14) 損害額合計 2526万0927円

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告Y2に対し,自賠法3条に基づき,2526万0927円及びこれに対する平成26年1月21日(本件事故日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告Y2に対するその余の請求及び被告Y1に対する請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第27部 (裁判官 野々山優子)