小松法律事務所

交通事故損害賠償請求権に対する仮差押効力について判断した高裁判決紹介


○「交通事故損害賠償請求権に対する仮差押効力について判断した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審平成31年2月27日東京高裁判決(交通事故民事裁判例集54巻1号12頁)の概要説明です。

○事案を再掲載します。
・原告は、h22.9.19、C(当時14歳)・Hから強盗目的の暴行を受け急性くも膜下出血等重傷を負う(強盗致傷事件)
・Cの父亡Gは、h26.9.9、加害者被告との交通事故被害で死亡し、被告に損害賠償請求権取得
・原告は、Cの強盗致傷事件被害としてCに約4822万円の損害賠償請求権、亡Gにも監督義務違反として同額の損害賠償請求権取得したとして、亡G相続人の被告に対する損害賠償請求権を仮差押申立
・千葉地裁は、h27.11.13、上記仮差押命令
・この仮差押命令に対し、被告は自賠法18条差押禁止部分を除いて弁済の意思ありと陳述
・被告とCらは、亡G交通事故被害賠償金として約4053万円の支払義務を認める示談契約締結
・被告はh28.10.20頃Cら代理人口座に約3000万円を振込送金して支払
・原告はCらに対し、損害賠償請求訴訟提起し、h30.1.26、千葉地裁は約6417万円支払命令判決
・原告はCら債務者、被告第三債務者とする債権について転付命令を得て、h30.3.28確定
・被告は、転付命令について、h30.3.23、前記示談金から支払済み3000万円を控除した残額の支払意思ありと回答
・原告は被告に対し、転付債権として約4822万円の支払を求めて提訴


○一審判決結論は
主   文
1 被告は,原告に対し,4463万2789円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

でしたが、
控訴審東京高裁結論は
主   文
2 平成30年(ワネ)第159号(一審被告の控訴事件)について
(1)原判決主文第1項を次のとおり変更する。
(2)一審被告は,一審原告に対し,1063万1840円及びこれに対する平成30年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

と、一審原告の請求が大幅に減額されました。

○論点を再掲載します。
①仮差押後にした示談契約の効力-被告は有効と主張
②被告の約3000万円の支払の効力-被告は有効と主張
③亡Gの被告に対する損害賠償請求額-原告は約5410万円、被告は示談額と主張

○一審と控訴審の違いは、一審判決は上記論点全て原告主張を認めましたが、控訴審は
①について
本件示談によって確定された損害賠償金の額は,全体として,一審被告の亡Gに対する損害賠償金として社会通念上相当な金額であって,Cらが,本件仮差押によって禁止された債権の処分をしたり,一審原告の債権を害したりしたものとは認められない。
 したがって,一審原告は,一審被告に対し,本件示談によって確定された損害額を上回る請求をすることはできない。

②について
本件示談によって,Cらから一括払の対応の依頼を受けた本件対人社が,Cらから自賠法16条1項に基づく自賠責保険金の直接請求を受けたものとして,Cらに対し,本件保険会社に代って自賠責保険金相当額である3000万1100円を立替払いし,これを上回る損害賠償金相当額の保険金については,仮差押えの効力が及んでいるものとして,Cらへの支払を留保することに合意したと解するのが相当であるから,本件対人社が,Cらに対して本件支払をしたことにより,Cらの一審被告に対する損害賠償請求権も,その限度で消滅をした

③について
一審原告の請求のうち,本件示談により合意した賠償金の残額である1063万1840円及びこれに対する本件転付命令が確定した日の翌日である平成30年3月29日から支払済みまで民法所定の遅延損害金を請求する部分については理由がある

として、ほぼ一審被告のの主張を認めました。