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低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例一部紹介2

○「低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例一部紹介1」を続けます。


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⑦ hクリニック、i病院
ア 原告は、平成16年9月4日から同年12月25日までhクリニックに通院し、頸椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性低髄液圧症候群、腰部髄液漏等と診断され、同年9月25日、ブラッドパッチを施行され、同日から同年10月2日までの間、ブラッドパッチ後の安静治療目的でi病院に入院した(前記第2、1、(3)、⑧、⑨)。

イ 低髄液圧症候群(「脳脊髄液減少症」もほぼ同義で使用されている。)は、脳脊髄液の漏出により頭痛、めまい、悪心、嘔吐、聴力障害等を引き起こす疾患であり、国際頭痛学会や日本神経外傷学会が作成した診断基準が存在したが、科学的診断基準ではないなどの批判があったところ、平成19年から、日本脳神経学会、日本整形学会、日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経外傷学会等の代表、放射線医学、疫学等の専門家から組織された研究班が、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診断基準の作成等を目的として研究を開始し、100例の症例の解析を経て平成23年4月中間報告を公表した(甲41)。

 上記経緯によると、中間報告は、現時点におけるわが国での脳脊髄液減少症(中間報告では「脳脊髄液漏出症」)、低髄液症候群(中間報告では「低髄液圧症」)の診断基準等に関する研究の到達点を示すものと認められる。

ウ A医師は、a 小脳扁桃の下垂、b 上矢状洞、皮質静脈の拡大、c 頭頂部硬膜下の液貯留、d 腰部MRミエログラムの元画像で一部髄液漏出が疑われたこと、e ブラッドパッチによる症状軽快を根拠に、原告を脳脊髄液減少症と診断する(甲34)。

エ 原告は、A医師の上記意見を援用し、原告には脳脊髄液の漏出に伴う低髄液圧症が発生していることを強く推認させると主張する。
(ア) しかし、q病院脳神経外科のD医師は、A医師による上記a、b、cに関する画像所見が誤りであるとし、dの所見にも疑問を呈するところ(乙一の一)、これに対するA医師からの具体的な反論は提出されていない。
(イ) 中間報告の提示する低髄液圧症の画像判定基準と解釈(案)には、次の趣旨の部分がある(甲41)。
a 脳MRI。
(a) びまん性の硬膜造影所見
 低髄液圧症の特徴的所見として広く受け入れられている。この所見があれば、低髄液圧症の「強疑」所見とする。なくても同症を否定はできない。

(b) 硬膜下水腫
 外傷や脳萎縮に伴い、低髄液圧症とは関係なくしばしばみられる所見で、本所見単独では診断的意義が乏しい。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(c) 硬膜外静脈叢拡張
 重要な所見の一つであるが、客観的判断が難しい。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(d) 小脳扁桃の下垂等
 正常所見との境界を明確に規定できない。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(e) まとめ
 びまん性の硬膜造影所見を「強疑」所見とし、典型的臨床所見と60mm水柱以下の低髄液圧所見と合わせて低髄液圧症を診断する。その他の脳MRI所見はすべて「参考」所見にとどめる。複数の「参考」所見があった場合には、「疑」所見とする。

b 脊髄MRI
MRミエロ、脳槽シンチ、CTミエロ
 略

(ウ) 中間報告の提示する低髄液圧症の画像診断基準(案)には、次の趣旨の部分がある(甲41)。
 起立性頭痛を前提に、60mmH2O以下の髄液圧とびまん性硬膜造影所見のうち、いずれかの所見があれば低髄液圧症とする。

(エ) 検討
 甲38号証(原告の陳述書)には、平成14年11月当時は、頭痛は寝ているとましになるが起きていると辛くなった旨の部分があるが、同号証のほか、甲32号証、37号証及び原告本人の供述によっても、明確な起立性頭痛(中間報告では、立位・座位後30分以内に増悪とする頭痛(甲41)。)が継続的にあったとは認められない。

 また、60mmH2O以下の髄液圧又はびまん性硬膜造影所見の存在を認めるべき証拠はない。
 原告は、A医師の診断根拠となった小脳扁桃の下垂及び上矢状洞、皮質静脈の拡大は、中間報告における低髄液圧症の画像判定基準である「小脳扁桃の下垂」及び「硬膜外静脈叢拡張」にそれぞれ該当し、頭頂部硬膜下の液貯留所見も、上記判定基準の「硬膜下水腫」と見られる旨主張する。しかし、A医師の画像所見に対しては、上記のとおりD医師は誤りとの意見であり、A医師の所見が正しいと仮定しても、中間報告の画像判定基準によれば、複数の参考所見がある場合として、低髄液圧症の「疑」所見にとどまる。

 以上によると、現時点で最も信頼性が高いと考えられる中間報告における低髄液圧症の画像判定基準、画像判断基準に照らすと、原告が低髄液圧症であると確定診断することはできず、その疑いがあるといえるにとどまる。そうすると、原告が本件事故により低髄液圧症となったことは証明されていないと言わざるを得ない(脳脊髄液漏出症又は脳脊髄液減少症であると認めることもできない。)。
 したがって、甲37号証が脳脊髄液減少症の症状であるとする前記各症状に係る治療費も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。


オ もっとも、現時点では原告が低髄液圧症であったことが客観的には証明されていないとしても、A医師が原告を外傷性低髄液圧症候群と診断し、ブラッドパッチを施行したことが、当時の臨床医の一般的な医学水準又は低髄液圧症候群についての一般的知見に照らし、明らかに不合理であったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、hクリニック及びi病院の治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

 甲6号証の7、7号証、25号証及び弁論の全趣旨によれば、上記治療費は、hクリニック2万5550円、i病院12万7352円であると認められる。

⑧ 症状固定前治療費計 83万2792円

(2) 症状固定後の治療費
 前記第2、1、(4)により、原告の症状固定日を平成17年1月5日と認める。
 原告には、症状固定後も多彩な症状があったが(甲32、37、38、原告本人)、症状固定後、医学的見地から、症状の悪化を防ぐため特定の治療の継続が必要であったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、症状固定後に支出した治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(3) 通院交通費
① 甲10号証及び弁論の全趣旨によれば、症状固定前の原告自身の通院のため、a病院分として8000円、b病院分として32万3763円、hクリニック分として2万6440円、計35万8203円を要したことが認められる。
② hクリニックの症状固定後分(原告及び付添人分)、甲10号証により症状固定後分であると認められるj病院分及びk病院分は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められない。
③ i病院の付添人の交通費は、同院入院中の近親者の付添看護の必要性を認めるべき証拠がないので、本件事故との相当因果関係を認め難い。症状固定前のhクリニックの付添人交通費については、後述する。
④ 小括
 本件事故と相当因果関係のある原告自身の通院交通費は、上記①の35万8203円である。

(4) 入院雑費
 i病院の入院8日間につき、1日1300円、計1万0400円(原告主張額9000円)の入院雑費を認める。

(5) 通院雑費
① 甲12号証の一によれば、原告は、a病院通院中、診断書代等の諸費用5890円を支出したことが認められ、上記費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

② 甲12号証の一によれば、原告は、b病院通院中、諸雑費として55万7981円を支出したこと、上記支出の相当部分が医師等の病院関係者に対する謝礼、歳暮、手土産代や保証人に対する謝礼、手土産代であることが認められ、これらのうち特に病院関係者に対するものは、原則として、本件事故と相当因果関係のある損害に含まれないというべきである。この点を考慮し、55万7981円の7割に相当する39万0586円(一円未満切り捨て。以下同じ)について本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

③ 甲12号証の一によれば、原告は、症状固定前のhクリニック通院中及びi病院入院中、諸雑費として12万2236円を支出したこと、上記支出の中には、医師、保証人へのお礼(手土産代)のほか、水購入費用4万4100円が含まれていることが認められる。医師へのお礼については上記説示のとおり、原則として本件事故との相当因果関係を認めることはできず、水購入費用についてもこれを認めるに足りる証拠がない。この点を考慮し、12万2236円の6割に相当する7万3341円について本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

④ 症状固定後のhクリニック通院雑費及び日田天然水購入費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められない。
 症状固定前のhクリニック通院中及びi病院入院中の付添人の宿泊代については、後に判断する。

⑤ 本件事故と相当因果関係のある原告自身の通院雑費は、計46万9817円となる。

(6) 通院付添費
① 甲16号証一及び弁論の全趣旨により、a病院への通院8日、b病院への通院22日、hクリニックへの通院7日(症状固定前)、計37日につき1日3000円、計11万1000円の近親者の通院付添費を認める。
② 甲10号証には、b病院への21回の通院につき付添人交通費として計26万8763円を要した旨の記載があるが、上記①の1日3000円の付添費には通常の交通費を含めているから、26万8763円から3万1500円を控除した23万7263円の限度で、別途、付添人交通費を認める。
③ 甲12号証の一によれば、b病院への通院に関し、付添人の宿泊代(及び荷物運送代)として計11万1191円を支出したことが認められるところ、上記①の1日3000円とは別に、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
④ 甲12号証の一によれば、i病院への入院、hクリニックへの通院につき、付添人(家族)の宿泊代として、三回、計7万4710円を支出したことが認められるが、一回1万1090円の三回分計3万3270円の限度で本件事故との相当因果関係を認める(一名を越える近親者の付添の必要性は認められない。)。
⑤ 本件事故と相当因果関係のある近親者付添費は、計49万2724円となる。

(7) 引越関連費用
 甲一号証、17ないし19号証、32号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時、夫及び娘二人とともにr市内の持ち家に居住していたが、平成14年、s市内の賃貸マンションに転居し、自宅は売却したことが認められる。甲32号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故に遭わなければ、上記転居及び自宅売却はなされなかったものと推測されるが、上記転居等に伴う出費は、本件事故による通常損害とは認め難く、これが予見可能であったとはいえない。
 したがって、上記転居等に伴う出費につき損害賠償を求めることはできない。

(8) 通院以外の交通費
 甲24号証によれば、原告は、人身事故の届出及び実況見分への立会等のための交通費として計4140円を支出したことが認められ、これは本件事故と相当因果関係のある損害に当たる。転居に関わる交通費は、前記説示と同一の理由により、上記相当因果関係を認め難い。
 
(9) 休業損害
① 原告は、本件事故前、四人家族の主婦として家事労働に従事していたほか、書道教室を開いていたが(甲32、原告本人)、本件事故により頸椎・左肘・左膝捻挫、左大腿部打撲、腰椎捻挫の傷害を負った(前記第2、1、(3)、①)。前記のとおり原告が低髄液圧症を発症したと認めるのは困難であるが、症状固定時までに、頭痛、頭重感、頸~肩背部・腰部痛、左半身の感覚障害(左手親指、示指等のしびれ等)、めまい、動悸、発汗障害等の自律神経症状、集中力低下、記銘力低下、思考力低下、全身倦怠感、冷感、左半身の痛み、耳鳴り、体温調節障害、車の運転が恐ろしくてできない、家事ができない。」などの多彩な神経症状等を自覚し、書道教室は一旦止め、家事労働も制限された(前記第2、1、(5)、①、③、甲37、38、原告本人)が、b病院通院中、症状は徐々に軽減され(甲四の六)、平成16年9月のブラッドパッチ施行により頭痛が顕著に改善したこと(甲38)などを総合考慮し、本件事故の日である平成13年12月4日から平成14年3月4日までの91日間は平均90パーセント、同月5日から平成17年1月5日までの1038日間は平均50パーセントの休業割合を認める。

② 計算
 平成13年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女子・全年齢平均賃金352万2400円を基礎日額として、休業損害を計算すると、579万8931円となる。
 3,522,400×91÷365×0.9≒790,368-a
 3,522,400×1038÷365×0.5≒5,008,563-b
 a+b=5,798,931

(10) 逸失利益
① 前記のとおり、次第に軽減したとはいえ原告には多彩な神経症状等が残存した。頚椎MRIで異常所見がなく(甲4の2)、神経学的異常所見もほとんどない(甲4の6、40)が、3年以上の治療にかかわらずブラッドパッチで頭痛に著効があった以外はめぼしい成果がなく、明らかに難治性であることなどを考慮し、原告は、症状固定時から10年間、労働能力の10パーセントを喪失したものと認める。

② 平成17年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女子全年齢平均賃金343万4400円を基礎収入とし、事故時における逸失利益の現価を計算すると、229万0847円となる。
 3,434,400×0.1×(9.3935-2.7232)≒2,290,847

(11) 入通院慰謝料
 傷害の内容、入通院経過、症状の推移等を斟酌し、208万円を認める。

(12) 後遺障害慰謝料
 後記のとおり本件事故の発生については原告にも過失があり、また、同事故後の原告の症状には原告の内在的な要因が寄与していることを考慮しても、甲32号証、37、38号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により通常受けるはずの肉体的苦痛や日常生活、社会生活上の不便、悪影響を相当上回る被害を受け、事故の態様及び当初の受傷内容に比し、多大の精神的苦痛を被ったものと認められる。後遺障害慰謝料の判断に当たり、これらを原告固有の特殊な事情としてすべて捨象することは公平を欠くというべきである。本件に顕れたその他の事情も総合し、後遺障害慰謝料は200万円をもって相当と認める。

(13) 物損
 原告車が原告の所有であること又は原告が原告車の所有権留保売買の買主であるなど、原告が、原告車の損傷につき損害賠償請求権者であることを認めるべき証拠はない。
 したがって、原告の修理代金及び評価損の賠償請求は認められない。

三 過失相殺
 前記第3、2、(1)、(3)ないし(6)、(8)ないし(12)の合計1433万7854円に2割の過失相殺をすると、1147万0283円となる。

四 素因減額
 本件事故後の原告の症状は、その多彩さ、強固さ、推移及び他覚所見との対比等からして、同事故によって通常発生する程度、範囲を超えており、原告の精神的脆弱性等の内在的要素が症状に寄与していると考えざるを得ないから、素因減額をすることとし、諸般の事情を総合し、減額割合は2割とする。
 素因減額後の損害額は917万6226円となる。

五 損害填補
 917万6226円に対する本件事故の日である平成13年12月4日から本訴提起の日であることが記録上明らかな平成20年5月27日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金の額は297万3594円であり、これから既払額222万2613円(前記第2、1、(7))を控除すると、遅延損害金残額は75万0981円となる。

六 弁護士費用
 本件の事案の内容、訴訟経過及び認容額等を総合し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、92万円と認める。

七 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し、被告Y1に対しては民法709条に基づき、被告Y2に対しては自賠法3条に基づき、各自1084万7207円及び内92万円に対する本件事故の日である平成13年12月4日から、内917万6226円に対する平成20年5月28日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。(裁判官 佐藤明)

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